正直、私自身は、パトレイバー厨でも、ゆうきまさみ厨でも、もちろん、押井推しでもない。
いや、この3つで言うなら、強いてあげるなら、押井厨ではあるが、かといってすべての作品を網羅している、とか、監督マンセー迄は到達していない。

だが、映画もビジネスだと考えた時に、短編を安い価格で見せる→本番の長編でクローズ→と見せかけて、もう一本、ディレクターカット版があるよ、と消費を喚起させる という今回の施策にまんまとはまってしまっている人は、いったいどのくらいいるのだろう…。
これまで実写映画、それも邦画には見向きもしていなかった小生を少なくともスクリーンの前に9回座らせ、総額12000円もの投資をさせたことは、営業サイドの勝利であり、もちろん、制作者にも一部が還元されていることを考えた時に、当方の投資は間違っていなかったといってもいい。

さて、見えている地雷とまで評価した今回のディレクターカット版(以下、DC版。対するゴールデンウィークに公開されたものをGW版とする)。だが、増えているとされる27分間もの説明によって、ぼんやりと通り過ぎてしまっていた様々な疑問や、「押井氏らしさ」が垣間見れた部分は、「あ、やっぱり座ってみて正解だったわ」となるところである。

というわけでいきなりだが採点に入りたい。もちろん、これですべての「中途半端部分が解消された」わけではないので当然100点ではありえない。だが、丁寧な説明や、カットシーンの復活によって、粗削りになっていた部分が膨らみを帯びたことによるまろやかさが感じられた。みそ汁で言えば、「ようやく出汁が効いて、飲める状態になった」といったところである。よって73点くらいとしたい(GW版は55点。でもこれでもやや下駄をはかせている)。

そう考えると、どうしても避けて通れないのは「なぜそぎ落としたGW版を公開してしまったのか」という点であろう。
理由としては、・書き入れ時に一回でも多く上映させたいとする配給会社サイドのごり押し ・監督不在のまま、完成度の高い作品に大ナタが振るわれた ・「とりあえずこれで納得するだろう」と観客が甘く見られた などなど。
公開中にもかかわらず「DC版あります」をアナウンスしなくてはならない状況だったからこそ、このDC版とGW版が二つあり、興収優先ですべてが決められ、監督サイドの意見は全く聞き入れられず、秋の端境期なら、120分ものでもいいよ、となってのこと、と考えると、すべてに納得がいく。

つまり、今まで皆勤賞だった人が、GW版を見てがっかりし、「え?DC版?どうせくその上に上乗せしてるからくそのままだろ」と思ってしまったら、それは、それで思いっきり後悔するに違いない。
特にGW版を見たうえでDC版を見ると、その端々に押井氏ならではと言える箇所が垣間見える。例えば、レインボーブリッジが襲撃された時にたまたま空撮していた画像を大型モニターで見せるシーンは、起動するとなぜかゲームの初期画面に。ここでいろいろごたごたしてしまいつつ、あーでもないこーでもないが繰り広げられ、外事課役の高島礼子がイラつく、という部分などは、漫画チックで面白い。また、2課総出の食事のシーンも、出だしの部分が追加され、旺盛な食事シーンが繰り広げられていた。
もちろん、「彼女」のことも言及がいろいろあった。まあ結果的に「誰なんだ」となっているところは、放置のままだし、最後に浮かび上がり、対岸に逃れるところもGW版と同様。あえて書ききらなかったところに意思表示を感じる。
ダイアローグで魅せる押井氏ならではのシーンも多く、特に南雲と後藤田の対峙シーンも、追加されているところがあった。そう。GW版を見ているから、余計に気になってしまうのである。

だからなのだが、本当に今回のDC版で一発勝負に出ていれば、もう少し、評価も違ったものになっただろうと思う。基地を襲撃された後のシゲオの慟哭も、テロリストたちの真の目的にたどり着くべき会話も、「いーらね」とばかりにカットされていたのである。そりゃぁ、映像としては面白いかもしれないが、ドラマとしてみた時に説明不足やいきなりのテンションアップなどはどう考えてもおかしい。これが、私が始めてみた時に感じた違和感そのものなのである。

パトレイバーに限らず、こういうシリーズもの/アニメーションの実写映画をやるときに注意しないといけないのは、ファンの期待値がいかなる時でも高めに設定されていることにある。それがクリアできないのなら、最初っからやらない方がましなのである。あの評論家氏が、アニメーションの実写化に辛めの点数をつけているのは、多分にこういったところが大きいと思う(それでもるろうに剣心は、高めでしたけどね)。
DC版で何とか帳尻を合わせた感がいっぱいなのだが、何度もいうように、どうしてこのDC版で勝負に出なかったのか…むしろ「ほらね。おいらの映画の方が評価高いでしょ? 」とほくそ笑んでいる押井氏が目に浮かんでしまう。