このストーリー上、最大にして、最強のネタの発掘である。
そう。

 「どうして、瀧も三葉も、感情の発露がないのに泣いているのか」


これを解析/論議しようと思った自分を呪いたい。そもそもこの「ただ流れ落ちる涙」こそ、この物語の根幹部分であり、解析しようなどというのは野暮以外の何物でもないからである。

だが、それだけ重要な視点が必要なシーンであることも事実。二人の涙のわけに迫れれば、この作品は、ほぼ丸裸になったと宣言してもいいくらいである。

・瀧の場合
彼の場合は、小説にもその情景が描かれている。
そう。糸守で口噛み酒を奉納した帰り道、カタワレ時近くで一葉に「夢を見とるな」と問いかけられて、2016年10月3日の本人に着地したときに流していたのである。

「……涙?」
頬に触れた俺の指先に、水滴がのっている。(p.95)

今まで、寝ることで入れ替わりから元に戻っていた瀧と三葉。ところが、このご神体からの帰路で、一葉から声をかけられたことがトリガーになって元に戻っている。

この「イレギュラー」と、「涙」がつながるのではないか…いや、彼を泣かしむるほどの行動は、一葉のこのセリフだけである。
実際、瀧は「べそをかいていた」わけではない。ただ涙がこぼれていたのだった。

人間の泣くという行動は、どうすれば起きるだろうか?
感動するから?別れが惜しいから?言葉では伝わらなくて感情が爆発してしまったから?ただ単に痛いから?自分の思い通りにならないから?・・・
いろいろな泣きや涙が存在する。この場合の瀧の涙は、実はそのいずれにも該当しない。そう。感情の発露が見いだせないからである。

だが…
泣くという行為が何らかの感情の発露だとすると、やはり彼も「三葉のことが好きになっている」という風に考えるのは強引でもないような気がする。三葉として過ごしていた日々がそれ以来無くなる、そんな突然訪れる最終回を知ってか知らずか…やや結論とするには弱いが「三葉を想った涙」とするのがやはり納得のいくところとする。

・三葉の場合
彼女の場合は、少々厄介である。
何の感情の発露もなくただひたすらにボロボロ泣いている、鏡に映った自分の姿を見て「私・・・なんで」と独白するだけが、スクリーン上で展開している。ただそれだけ。小説にもその情景はかかれていない。これは正直言って「やりやがったなwww」と思わざるを得ない。
なぜか?彼女の場合、入れ替わり直後何かがあったとかはないからである。少なくとも前日に「本来自分が計画した」奥寺先輩とのデートに行けず、その翌日になって、東京に行く算段をしている。ちなみにこのシーンは、2013年10月3日の学校に行く支度をしている最中の出来事である。
そう考えると、実は、意外にも、パズルがいろいろと組みあがっていくのである。
・三葉は、入れ替わったことで、瀧の奥手ぶりに業を煮やし、奥寺先輩とうまく付き合えるように尽力した(おせっかいも甚だしいのだがww)。
・トドメとなるはずのデートの局面で、自分がフィニッシュを決められず、結局瀧にゆだねることになる(結果は、画面上の通り)
・うまく行かなかった瀧と奥寺先輩。そして、自身が瀧にしていることが、実は瀧に好意を持っていることに気が付く。

うおお?!
彼女の涙は、完全に「恋する乙女」の涙であるとわかる。もっとも、これも”証拠”がないので独自研究/勝手な想像の域は出ない。

瀧はデートの際、奥寺先輩に本心を見抜かれている。そして小説104ページにも、彼が三葉に思いを寄せているような記述も存在する。
「俺たちは入れ替わりながら、同時に特別につながっていたのだ。(略)ムスビついていたのだ。」

とはいえ、「泣く」ことに必要な感情表現はほとんど両者ともしていない。特に三葉の場合は、顕著である(何しろ髪を結っているときにですからね)。
それでもまるで自然に出てくる吐息のようにボロボロ泣く三葉に瀧。お互いのことを想うがあまり、予期せぬところで涙がこぼれてしまう…まさか、とは思うが、ここまでの熱情を帯びた恋愛に発展していたのか、と思わざるを得ない。

解析結果<独自研究>:
泣きに必要な、感情の出現がない、二人の自然と流れる涙。そこには、感情を超越した、体が自然と相手を欲する、「会えない」「思いだけが募る」結果の涙腺崩壊とみる。