25縄目を鑑賞する。もうとにかく涙腺が緩みっぱなしなのである。
だからと言って、私が自身の出した回答が「間違っているのではないか」とか、「まだみおとしている部分があるのではないか」という探求心を忘れてはいない。ただ単に見続ける、という行動に至るよりも、この作品をきっちりと深掘ることに成功し、そして、序盤に出していた解析とは比べ物にならない解析の精度と深さを兼ね備えることになった。

さて、とうとう『小ネタ』は小ネタであふれかえってしまったので、この後「分割掲載」する予定にしている。そう。25縄目にしてまたまた見つけてしまったのだ。
そして、私は、それまでの感動が邪魔をして、素通りしてしまっている、2021年の描写ののちに2013年の災害発生当時の映像を見ていて、雷に打たれたような感覚と、そして、そのことで「私の仮説は正しかったのだ」と思い知らされることになる。

シーンは、瀧の一人語り。「自衛隊提供」の映像がもたらされ、歴史が確定したそのタイミングである。そして我々は、瀧が「変電所の爆発」のwebニュースを見ているところを何の気なしに素通りしてしまっていたことに気がつく。

時系列が混濁したままの人なら、「あ、これって2013年の最初の時間軸では起こっていない出来事で、町民の大半は死んでいるはずだから、2016年に振り返りで見ているのだな」と思ってしまう。だが、実際には、あの記事を読んでいるのは・・・

  2013年の14歳の立花瀧である

そのことにようやく気が付いたのは、部屋のレイアウトが大きく違っていたことによる。2013−16の間に、立花家は、恐らく離婚による世帯人員の減少から、一戸立ち風の場所から、官舎的なマンションに移り住んでいる。
「引っ越し?してるか、それ」・・・
甘い。甘いですよ。2013.10.3のシーンを思い出してもらいたい。三葉が組紐を渡しつつ下車したのは「四ツ谷」駅。2016年のデートの時の待ち合わせ場所も、自分の立ち位置がわからず駅頭でおろおろするシーンも自身の最寄り駅でもある四ツ谷でしたよね。ということは、組紐を瀧が車内で受け取ったとすると、まだ電車に乗っている必要性があったからにほかならず、それは最寄り駅が四ツ谷でないことを意味する。
彗星来訪の天体ショーを見ている食卓も、テレビの位置関係などから「2016年の立花家」とはかなり変動していることをうかがわせる。トドメは屋上と思しきところで天体ショーに見入る瀧。マンションならそう簡単に上がれないし、自転車も置いてあったのでほぼ確実とみていい。

うへっっっ
こう書いていて、「あのオープニング!!!」が目に浮かぶ。「夢灯籠」の歌詞で言えば、「いつか行こう 全生命も 未踏未開拓の~~」の部分だ。瀧は確かに屋上に上がって西を向く。都庁を突き抜け、山岳が目に入り、落っこちてくる前の糸守湖が出てきて、三葉の部屋に入っていくというスピード感あふれるシーンだ。このときの瀧はなんと高校生。引っ越しはそれ以前に行われていると仮定されるので、「時間軸はずれていない」かのような演出になっているところが面白い。

ちょっと本筋からずれた。
そして、「変電所爆発」の記事を読んでいる傍らには、プラモデルの箱に塗料らしきものが載っている背景が仕込まれている。趣味がこの3年間で変わったことを示唆すると同時に、「変電所爆発」はどうあれ起こっていた出来事であることがうかがい知れるのだ。さらに付け加えるなら、そのニュースを見ているケータイは、iPhone6ではない。
そしてここからが当方が発見し、遂に「完全回答にムスビついた」証左といってもいい事柄を発表する。

 瀧が読んでいるのはwebニュース記事であり、後にも先にもネットニュースは出てきていない

今まで見てきている、文字上の情報は、既述したように「間違っている」情報である。特に古川図書館で見、宿である飛騨山荘で見ていた内容(特に死傷者の部分)も、ほとんど我々に詳細を明らかにさせていない。「そして何よりも」(トシキ 談)、これだけインターネットが普及しているというのに、webニュースにアクセスしたのがこの瞬間だけ、というのだから恐れ入る。図書館で探そうとした内容も結果的には画面では提示されていない。「検索するすべは知っているし、それがあって当たり前」と思わせつつ、見せつけられるのは文書情報ばかり。テッシーと早耶香の並び、さやかの誤植…。夢の中の出来事だから、そんな整合性の取れないことになっているのだとしたら…

うはっっっっ
たったこの記事・記述・シーンだけで、「歴史は書き変わっていない」ことを一瞬でわからせる"仕掛け"としてあったのだ。
詳しく見ていこう。
仮説1  瀧が歴史に絡んで「いない」とき
第一の時間軸=2013.10.4に、隕石災害で人々は死んでいるはずである。むしろ、そうでないとおかしい。「な・の・に」停電していた、というのである。すでに言ってきているように、停電している落下シーンが正解であり、それは負傷者こそ出たが死者は出ていないことをあらわしている。
もう矛盾していることにお気づきだろう。
仮説2  瀧が歴史に「絡んだ」時
当然映像で見られたことが起こっている。変電所は爆破され、町は暗闇に包まれる。その中を彗星が銀粉を振りまきながら、カタワレが落ちてくるのだ。

もう今までの当方の「深掘る」記事を思い返していただかなくても上記の2仮説を見るだけで十分だろう。瀧が関与していないはずの、最初の時間軸の2013年10月4日の時点で、「誰も死んでいない」という結論が導き出されているのだ。
世の中の大半の解析厨は、時系列云々、時間軸がどうたら、という風に見てしまっている。そして当方も当初は「書き換わった」という結論で過ごしてきた。
だが、途中で「それはおかしい」ということに気がつく。歴史は一つ。「真実は、いつも一つ」(子ども探偵 談)なのだ。特にタイムマシンのようなもので入れ替わったり時空を右往左往しているのではないから、彼/彼女の生きている時間軸は唯一であるとするしか、やりようがない。
だとしたら…三葉には「死んでもらう」と困るのである。生き返る、という別のルートはあり得ないのである。入れ替わりが起こるためには、2016年の瀧に憑依しても矛盾しない肉体の存在が必要になる。片一方は、2013年にいたとはいえ、2016年には死亡してしまっていては、入れ替われるはずがない。口噛み酒トリップ後に入れ替われたことがそれを証明している。

宮水家に隕石が落下する。周りは停電。もちろん避難は完了。これが唯一無二のあの出来事の顛末なのだ。そこまでの記述や喧騒はすごくどうでもいい。正しい歴史を最後に上書き・・・ではなく、正しい歴史を確認するのが「スパークル」が流れている間の出来事と言えるのだ。

彼ら…三葉/早耶香/テッシーはきっかけは作れた。だが、結果的にすべての町民を生かす方向には完全にできなかった。最初に瀧の入った三葉が「絶対に死なせるもんか」と宣言するのだが、一人でも死者が出ると逆に歴史と食い違ってしまうのだ。そうならないように手を下したのは、町長たる宮水トシキの強権だろう。
入れ替わりの必然は、「糸守彗星災害を、誰の死者もなく済ませること」が至上命題だったわけであり、もちろん、入れ替わりそのものは発生していた。ストーリーの展開として、「最初の時間軸で三葉たち死亡」という風に"植え付けた"ことで、瀧がその歴史を書き換えるという体に見せることは、一回/よくて数回しか見ない層にはそれで十分だった。
だが、深く見れば見るほど、このストーリーの時間軸は『一つだ』と思い知らされる。2013.10.4は、三葉に入った瀧が彗星災害を回避するべく尽力した歴史。2016.10.21の瀧一行の飛騨探訪も、「3年前に・・・死んだ?」という言葉が死んでいない可能性をも示唆する。そしてそこまでに紡がれていた、記憶や記事の数々が「本当の歴史と食い違っている」。

そして最重要項目がある。

   『我々は三葉の死を目撃していない』 

このことだけで時間軸のことは説明ができてしまう。隕石描写の4回目(宮水家近傍に落ちる)が歴史の真実であり、浴衣姿で割れた彗星を見る(オープニング/一回目)・真上にゆっくりと迫りくるような彗星本体の描写(口噛み酒トリップ内/それを思い起こす、瀧の中の三葉)は間違いであり、それが記述されたのは三葉の身に何かが起きたことを強調する→死んだと思いこませる 効果を狙ったものと思われる。
彼らは歴史を作った/書き替えたのではない。歴史上の出来事を狂わせない様に補完したのが正解なのだ。

ま・さ・か・・・あんなところに「正解」が転がっていようとは。
そして、25回目にして、ようやく当方も「丸裸にできた」と宣言してもいいくらいに理解が一層進んだ。

・  ・  ・  ・  ・  ・

だが、と思う。
ここまでのストーリーを組み立て、矛盾と見せないように描写し、これ以上ない恋愛物語に仕上げる。
これができる人だったのだ。新海誠という男は…
私は、この映画が発表され、20数回も見ていく中で、この人の力量を過小評価してしまっていたことを反省し、更なる逸材が転がっていないか、と模索する方向・・・極力選り好みせず作品を見ることにした。
なんでも川村元気氏は「ほしのこえ」を見て「ぶったまげた」(p.259)そうなので、新進気鋭で作品の評価もままならない人の作品をリスペクトしていくことは悪いことではないと思う。かくいう私も「カリ城」発表の時に「この人は大物になるよ」と当時の宮崎氏の隆盛を予測できる眼力は兼ね備えている。だから、私にも川村氏が新海氏を見出したように『来るべき大物』を釣り上げる自信はある。

もうそろそろ「次」に向かっていかないと、ロスに苛まれそうで、鬱になる。