映画の魅力にとりつかれたのは、たぶん、あの日から。
ぶっちゃけ、去年の今ごろは、仮に1100円で見られるとしても、全く見向きもしなかったわけだが、それがどうだ。2016年10月から、実に10ヶ月連続の劇場訪問、かつサービスデー観賞を実現できた。
もちろん、そこそこの距離離れていても「俺がもう一度逢いにいくって」とさせてくれるあの作品は、さすがにみるとなってもコスパが悪すぎる。仕方なく三宮界隈でさがすが、大作2作の一騎討ちで、正直その空間を共有したいとは思えなかった。
そこで目に留まったのが、神戸国際松竹の存在。探してみると、おおお。モーガンフリーマンを始め、名優が銀行強盗に身をやつす「ジーサンズ」がある。ストーリーは、意外性はなさそうだが、人間主動型の作品に触手が動く。
果たして、劇場に着くと、異様な盛り上がり。それもそのはず。「Free!」がここで上映されていたのだ。見事に腐女子をつかんだ作品なわけだが、それだけではない。ここでは他にもアニメ系の映画をバンバン上映するみたいなのだ。なのはにノーゲームノーライフ、来年だが、中二病の劇場版もやるのだ。それらの前売り(特典付き)も、何とはなしに売れている。
吐き出された観客は、なにげにアニメ観賞層=「魔法科高校の劣等生」。その少なくない料金が、あちこちに好循環をもたらしつつあるのか、と思わずにはいられない。
ジーサンズの入れ込みは、想像以上。8割強の入りは立派。もちろん若手は散見された程度で、ほとんどが熟年という状態。平均年齢は40代後半~50代前半と推定する。男女比はほぼ半々。若干女性陣が多いかな、程度。

ストーリーはいたって簡単。先行き不安に襲われ、貸してくれた銀行に反旗を翻す3人のご老体が、銀行強盗を完全犯罪のごとく成し遂げる、というものである。
結局「大団円」=捕まらない、というところをどう細工するか、と言ったところなのだが、このアリバイ作り/トリックの妙はすごい。監視カメラ世界で、その映像を逆手にとってアリバイ作りにするといったやり方は、もしかするとこの手の犯罪を犯そうとしている人に重大なヒントを与えかねないのか、とさえ思う。それくらい作劇の妙には感じ入る。だが…現地で下見する彼らが録画されていたことも事実。アリバイばかりに気を取られている我々だが、銀行のチェック体制にも疑問が残る(受け付けもしない爺さんたちが、何もせずに行内をうろつくあたりに疑問を感じなかったところがザルすぎる。まあそれだけで犯行は裏付けられないとしてのことだろう)。
特に関わっていく人たちの横のつながりも意外に面白い。ラスト前。指南役だったペットショップのオーナーが実は…と言ったところとか、いまだに疑いを持ち続けている捜査官とか。結果的に万引きに向かったスーパーの店員も、カフェの店員ですらキーパーソンになっていくなど、深く見せようとする努力に怠りはない。
なんといっても主役はアカデミー級。演技に万に一つもまぎれがない。3人が、ふんぎれない一人を説得するシーンの丁々発止ぶりは、この作品の前半の一つの見せ場でもあろう。
とはいうものの…最大のピンチに彼らが同席するところは、果たして必要だったのか、といわざるを得ない。面通しをして、犯人を見つけ出そうとするFBI。だが、人間の感情の機微までは見抜けない。なぜ彼女は"嘘"をついたのか…もう一つ、あの立ち位置はもう少し工夫が欲しかった。いかにも「最後はこの人」というところにする意図が、必然性が見いだせない。むしろ3人を固める、あるいは、いきなり立ち会わせて、「どう出るか」と観客に想像させた方が面白かったのにと思う。最大の山場のボーンミスは、大幅減点になった理由である。
すべてが大団円。一人は失っていた家庭をとりもどし、一人は友人の臓器をもらって病気を克服、もうひとりは老年結婚までしてしまう。あまりにもハッピーエンドすぎる最後の乾杯で〆となったわけだが、ホッコリさせられるところに、アメリカ映画の実力/人間ドラマを作られる素質というものを見てしまう。
正直、ドキドキ感は少なめ。すんなり流れるストーリーは難しくなく、初心者向けといった面持ち。ジイサンズだってやれるんだ、ということにするには、邦題のあまりのしょぼさには苦笑するばかり。彼らに敬意を表して74点としておきたい。
決して良作とまではいかないが、結末が安心してみられる作品であり、2時間ドラマの延長線にあるレベルながら、読了感は得られる。逆を言うと、彼らに激しいアクションや、大どんでん返しは似合わない。くそではないが、あまり期待すると肩透かしは食らうので念のため。