2017年は、本当にありとあらゆるジャンルの映画に触れている。
とはいうものの、シリーズものであるパイレーツオブカリビアンとか、名探偵コナンなどは今のところスルーしている(ピピアでやるコナンには少しだけ触手が動きかかっている)し、スイーツ映画も一切選択肢に上がってこない。アニメーションの実写化というくくりになる当作品も、事前にフジ系でアニメーション版を上映したりしていたわけだが、果たして、どう出るか、は疑問だった。

それにもまして、興収の爆死ぶりが報じられて、みようかどうしようか、逡巡する。
→週末興行では、公開初週の9位がベストの模様。これからの伸びは期待できそうもない
とはいえ、ハズレでも悔いはないサービスデーに見るのなら、この価格はあり。対抗には「リリカルなのは」を上げたが、実写であり、某氏も「おすすめ」にするくらいなので、ここは勇気を振り絞って、ミント神戸に向かう。

入れ込みは、20人強と言ったところ。女子ペア/20代後半がメイン層で、アニメから来たと思われる男子ペアも2組ほど。だが、私の同じ列に、私より一回り程度お年を召した男性ソロが座ってきたときにはさすがに度肝を抜かれた。映画ファンなのだろうが、作品を間違えたのか、と真剣に思ったくらいだ。

ストーリーや設定などは、原作をほぼ踏襲。秩父の街並みや、印象的な"聖地"といえる大慈寺もしっかりと本物が出ている。今回ヒロインである順と拓実が会話する場所や、行方不明になったヒロインを探そうとするシーンで登場する秩父橋は、アニメ版には出てきていない模様。お山の上のお城も、秩父市内ではなく、別の場所のラブホを利用したと思われる。

実は、実写版を見てアニメ版を見返したのだが…なんなんやさ、この再現度?!
いやあ、びっくりした。当初中島健人(ジャニタレ)ありきの企画かと思っていたのだが、彼がきっちり拓実を演じているのみならず、拓実に巧みに(ここ、笑うところですからwwww)なり切っている、とまで感じられるのだ。
もちろんほかの主要メンバーも驚くべき再現度で迫ってくる。順役の芳根京子嬢の演技は、鬼気迫る、といってもいいくらいの演技。ちょい悪テッシー・・・基、田崎もよくこの人を見つけてきたなと思えるくらいのキャラ立ち。
登場人物が妥協していない作劇に取り組んでいることがよくわかる。

大絶賛、のように聞こえるここまでだが、思いもかけない大仕掛けがあるわけでもなく、特に最後のミュージカルのシーンで、順が登場するシーンは、完全に「狙いすぎ」で当方はずっこける。それどころか、これってストーリーになかったはずの部分だよね? それをぶっつけ本番でできるはずがない。まあその後、感極まるシーン(親子ともども)で帳消しにはなるが。

この作品の大テーマは「みんな、思いをまともに伝えきれていない」ということにある。一時期恋人同士であった拓実と菜月、言葉を話せなくなってしまっている順、野球ができず悶々とする田崎。周りの人たちも、こう、心の中にもやもやを隠し持ったまま、お互いに気遣いながら毎日を過ごしている。
ミュージカルに挑戦するとき、主役に立候補する順。この選択はおそらくすべての登場人物の心を動かしたに違いない。付箋で想いを伝えあうクラスメートたち。少しずつ、わだかまりが、遠慮がなくなり、本音でぶつかり合う若者たちの群像劇がそこに生まれてくる。

アニメーションの方は、ファンタジーな側面も見せていたわけだが、玉子の妖精というキャラを封印して臨んだ実写は、むしろ新しい「ここさけ」を味わうに十分だった。
大感動が押し寄せるほどの元ネタでもなく、あっさりしゃべり始める順の説明不足な面は否めない。だが、青春群像劇でありつつ、意外に安く、短期間で撮ったにしては、充分感動できる。要するに「掛けた金額に比例したものは感じられた」ということが言いたいのである。

若手の有望株の競演。これが見られただけでも良しとせざるを得まい。変にネームバリューにこだわらず、雰囲気/キャスティングありきでここまでの作品が作られるのだから、大したものである。たまの光る一手は感じられたが、大きくプラスになるほどのものはない。75点が精いっぱい、と言ったところである。