「千と千尋の神隠し」がなし得た、2300万人超/300億越えは、レジェンダリィな記録として扱われるべきものであり、これを基準にするのはハードルが高すぎる。
直近の大ヒット作である「君の名は。」は、当初の興行収入予想はたったの15億。それが1900万人超/250億という望外な結果をたたき出してしまう。
『二匹目のドジョウ』を狙って出した、岩井俊二監督原作の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」(以後、「花火」と略)は、「君縄分が高いのか」という間違ったステマのせいもあり、また、試写会体験者の酷評も手伝って、一週目の土日こそそこそこ入り3位にとどまったが、それ以降は予断を許さないランキングとなりそうな気配である。

公開が遅くなった「花火」。実は、「君の名は。」の方が企画としては後だったのだそうである。公開時期が後になったことで「君縄の2番煎じ」とついつい言いたくなってしまうのだが、そこは間違ってもらいたくない。逆に言うと、なんで一年もずれてしまったのか。シャフトという会社の製作体制にも問題がありそうである。

そう思って、TOHOレディースディの水曜日に劇場に向かう。
私の中で、あのTCXの画面の巨大さは、そうそう体感できるものではない。しかも「君の膵臓を食べたい」が梅田一番を主戦場にしていると聞けば、もう行かざるを得ない。
しかも…14:40始まりの「花火」→16:30始まりの「キミスイ」が見事につながる。奇跡といえる時間割で正直驚く。

酷評の嵐は本当かどうか。
まず「花火」のスクリーンに対峙する。梅田2番はそこそこの大きさ。やはりレディースデーの威力は絶大で、かなりの入れ込みが発生。とはいえ、半分程度の150人超。「君縄」のように、公開一週目なのに満席に近い状態という状況にまでは至らない。
ストーリーは、正直、45分の元ネタを薄める/無いエピソードを混ぜ込む(タイムリープを促すガラス玉・電車に乗るなどなど)方向にかじを切ったこともあり、そう言った付加した部分が物語に厚みを与えているかどうかがカギである。

実際、私はこの作品におけるタイムリープは、全て一からやり直しだと考えていた。ところが、ある起点で玉の威力を発動すると、そこまでの歴史は紡がれたままになっていることに気が付くのだ。本当に一日を何度も何度も繰り返してほしかったし、必要ならば、早送りで「どこまでは一緒」なのかをわからせる方向にした方がよかったかもしれない。
そして、酔った花火職人が玉を打ち上げてしまう。このシーン、実は『IF』がてんこ盛りである。割れた破片は、彼らが、「あの時こうしておけばこうなっていたはず」を次々に映し出す。このシーンの美麗さと演出は、「なあんだ、全然クソじゃないじゃん」を確かなものにした。ラスト、典道が学校から消えた理由は、説明せずに観客にゆだねた。

さて、評価である。
実は、作画崩壊、とまでは言うつもりはないが、シャフトらしからぬ部分が垣間見えたのは事実である。特に一番の描きどころである、プール/水泳競争の場面。ドキドキするようなマッチレースを期待していたのだが、案外な描写に留まる。背景美に人物が溶け込んでいないと感じられるようなシーンも多い。最後、典道が始業式(点呼をとっていたのでそう思いたいが)にいなかったのはなぜか、を明示しなかったのはこの作品の今までを台無しにする。
ただ、「どうしようもなく駄作」とまで評価を落とすまでには至らない。声優担当のお二方の演技に合わせるように、端役の声優さんも下手さを醸し出している(特に裕介役の宮野氏はそれが顕著に表れている)。なので当方は、棒とされた菅田氏も、年がいない声だった広瀬嬢も、そこまで違和感を感じなかった。それを言うんだったら、ナズナの大人び過ぎた描写の方が問題だ。加点ポイントは、花火の表現。これがあることでまだ救われる。

君縄99点、片隅85点、ルー80点、乙女88点、ノゲノラ94点。こうやって自身の採点を列記すると、やはり感動できているかどうかが評価の分かれ目になっている。今作は、ラストシーン直前の、典道とナズナのツーショットがどう影響するかに依っているのだが、当方は「ややあり」とした。最後、玉の破片を典道がつかむシーンは、彼らの行く末を暗示したものといえなくもない。
というわけで、少し下駄を履かせて90点とする(ツイッター上では92点表記) 。とてもではないが「君縄」を越えうることはできないし、登場人物の誰にも感情移入できはしない。この評価は、綺麗な絵と、劇伴、ファンタジーに振った後半のタイムリープ部分でしかない。

世の酷評ぶりの正体。それは基準点が「君の名は。」だからだ。バックボーンも何もかも違う作品を同列に扱うことが荒唐無稽なことと気づいてやっているのだろうか?だとしたら、それは不当な花火sageともいえる。比較すること自体が滑稽だ。
ある意味、この作品の持ち上げぶりと爆死ぶりは、予定されたものと言っても間違いない。本来彼らシャフト/新房さんのキャパは、20億程度が限界だということである。そもそも原作が薄い。そこをさらに薄めたのだから、評価のしようがないのも仕方ないところだ。大規模上映で結果が出せなかったシャフト/新房ファミリー。今回は、原作に恵まれなかったのは間違いない。そこを信じて次回作に期待したい。
<参考>
見方はそれぞれというものの、当方の意見はほぼ踏襲しています。ただ私は、映像面・劇伴を少し評価したことがこの得点につながっているわけであり、総じて「もう一度」とは思っていません。