案外、とまでは行かなかったものの、「皆さん過小評価しすぎですよ」となった、「打ち上げ花火」のアニメーション版。もっとも、映像面と素晴らしい劇伴のせいで誤認させられている部分は否定しない。

「花火」終了から10分おかずに「君の膵臓を食べたい」(以下、「キミスイ」)がスタートする。スクリーン2→TCX仕様/733人収容のスクリーン1に移動する。
あの大画面。「君の名は。」を鑑賞したあの感動が甦る。中ほどの座席をゲットしたわけだが、さすが、よくわかっていらっしゃるのか、後ろの方から埋まっていく。当方の観客数カウントも、50単位で急上昇。予告やっているさなかでも次々着席していくありさま。さすがに完全カウントはあきらめたが、400人超が入場したのは間違いない。
レディースデーなこともあり、大半が女性ペア。右隣は、持ち込み上等の20代後半の女性ペアだった。女性の比率が圧倒的だったわけだが、当方試算で8:2とする。年齢層は、若年層が大半を占め、30代女子もそこそこ。平均は20代後半としておく。

さてストーリー。
難病で余命いくばくもない女子高生が、ひょんなことから闘病日記を同じ組の男子に見られてしまう。それをきっかけに、「二人だけの秘密」にしつつ、距離を縮めて行こうとする。同じ図書委員になったり、食べ放題スイーツ店に行ったり。だが、よくは思わないクラスメートの存在。GWにはとうとう二人で泊りがけ旅行までしてしまう。それでも気持ちをいまだに伝えきれない男子。その時が刻一刻と迫る中、最後の旅行が計画されるのだった…

主人公が確実に死ぬ映画。しかも、高校生が主人公…これだけで泣けてしまうではないか。若くして命を散らせなければならないわけ。それでも前向きに生きることにどん欲になる。山内桜良の人生を応援したくなる部分である。一方の志賀春樹君はといえば…もうね。自分を見ているかのよう。自分一人で完結することが絶対で、誰ともかかわろうとしない。私自身はそこまでコミュ障でも内気でもなかったと自認している(とはいえ、今のような人格が開花したのは高校に入ってからであり、それを気付かせてくれた友人のおかげである)。

二人の短い交流が主に描かれるわけだが…元気を振る舞っていても、薬の入ったポーチ。「私、生きたい」という魂の叫び。こういった言動で我々にもただ笑顔を振りまいているだけの彼女が死に対して向き合ってはいるものの、言いようのない不安を共に抱えていることを知らされる。
不器用でいて、それでも真剣に対峙している彼らの語りは、感動を呼ぶにふさわしい。何度も涙が頬を伝う。
そしてあっけない幕切れ。それは想起していなかったが、その喪失感は、まさに瀧があのご神体で三葉を見失った部分に呼応する。

大人部分の作劇も悪くは見せなかった。特に春樹に関わるガム好きの男性が、桜良の親友の恭子の夫であるところなどはなかなか面白かったし、そのあとの"告白"も「今頃かよぅ」と言いたくなってしまった。
そして何よりも、この作品のタイトルの意味をしれば、号泣は避けられない。悪い部位のところを食べて治癒させる、というシャーマン療法を最初は提示するわけだが、そこからさらに「ひとの臓器を食べることでその人が体の一部になる」ということにつながる。愛の告白をメールでしようとした高校生の春樹が、「君の膵臓を食べたい」と言い、高校生の桜良が春樹に書いた手紙の最後が「君の膵臓を食べたい」という。このラストシーンですべての感情が解き放たれる。もうどうしようもなくなってしまうのだ。

「君の名は。」は、初見で号泣にまでは至らなかった。むしろ、その映像美と壮大な舞台装置に圧倒されてしまったというのが実際だ。伏線も結構張ってあったせいもあり、2回/3回見た時点ですべてがわかるくらいにしてあった。
だが「キミスイ」は、すんなりわかる仕掛けにしてある。桜良のスマイルマーク、図書室での会話、「星の王子さま」、タイトルの意味・・・大人春樹が教師をしている理由も、辞めようと思っていたことも、全て平易に収めている。
お互いを名前で呼び合わない部分も実はかなり引っかかっていた。(苗字ですら、あまり記憶にないぞぉ?!)。ここも「君の名は。」とは対比される部分だ。名前を呼び合いながら、お互い名前を忘れる「君縄」と名前を呼び合わない「キミスイ」。それでもストーリーは出来上がるのだ、と思い知らされる。

今までこの手のスイーツ映画は、みようとも思わなかった。ただ、これを見ようと思った原動力は、予告編の「死ぬよ」とあっさり言う浜辺美波嬢の演技に目を奪われたからである。

等身大の高校生を演じた浜辺嬢。気をてらう必要のなかった同年代の女性を演じたのみならず、端々に見せる「弱い女性」の一面をうまく演じ分けている。春樹役の北村拓海氏も、こんなこと言っては何だが、女性に対しては「リアル瀧」なんじゃないの、と思ってしまった。でも、雨の降る山内家の一件は正直ドキッとさせられた。

そろそろ評価と行く。
普通なら「満点」と言いたいところだが、納得いかない部分があった。それが元カレである委員長との絡みである。お前こそ、なんで山内家の周りをうろうろしてんだよ、と言いたくなるわけだが、ここは若干無理やりと感じなくもない。共病文庫を受け取る際のセリフも「それ言わんとダメかな」となった。
最も大事なことなので声を大にしていいたいのが「舞台設定と言語」の関係である。大人春樹がタクシーを捕まえるその時まで、滋賀が舞台だとは知らなかった。そりゃ、全員標準語でしゃべっているので、「東京方面なのかな」と思うのも無理からぬ話。舞台を滋賀にしたと宣言していたら、関西弁を習得しないといけなくなる。ここはうまくやったと思うと同時に、それをおおっぴろげにできなかった部分を勘繰る。
だが、そういったことは取るに足らない減点要素だ。二人がわずか2か月余りしか交流していないのに、ここまでの熱情を帯びた恋愛に発展できている。なにより、大の大人が、彼らの魂の叫びに嗚咽を禁じ得ないのだ。
「君縄」は、そういった感情の発露なしの初見で99点だった。良さは見いだせるし、なんといっても感動の嵐は随所に埋め込まれている。95点をつけると同時に、今までの当方の実写邦画の最高位置に立つにふさわしい作品としたい。
芸術的ではない。だが、ストレートに伝わる作品。良作というものは、こういうものだと思い知らされ、まだ目が赤いまま劇場を後にする。