2016年10月1日。
忘れもしない、「君の名は。」の初見デー。しかも、電車の人身事故に見舞われる/とはいえ、ぎりぎりながらでも劇場にインできたという、今までの映画鑑賞の中でも特異中の特異といえる印象を当方にも植え付けさせた挙句に、ただひたすらに感動しかしていない自分に驚いていた。

以来、毎月1日は、確実にスクリーンに対峙することを心に銘じてきた。しかも、10月から3月、しかも2月・3月は「君の名は。」を見るために劇場をはしごする(2月は同一劇場で、3月は別劇場で)という"暴挙"までやってのけている。

4月以降はそれまでの君縄一択から選択肢が広がる。おかげでよく見てもアニメーションタイトル2、3本/年だった私の鑑賞記録は、この作品鑑賞前で15タイトル/アニメ系8・実写系7 となっている。

何がここまで私を駆り立てているのか?はっきり言えば、「映画は劇場のスクリーンで見るべきものだ」ということに気づかされたからである。それもこれも、新海誠氏の映像表現はもとより、写実性たっぷりの透明感あふれる背景がそうさせているといっても過言ではない。

9月1日。ミント神戸のスケジュールを見て狂喜乱舞する。仕事終わりで十分間に合う16:10スタートの「きみの声をとどけたい」の終了5分後に、同じフロアで「君の膵臓を食べたい」が見れるのだ。もちろん、データ取りなどは特に「キミスイ」は難しくなるだろうが、別にこの際入れ込みデータ度外視で「観る」ことに傾注したいとも思っていた。

さて、この「きみの声をとどけたい」略して「キミコエ」。実は、主役声優たちは、この作品が声優デビューという、一般人対象のオーディションを勝ち抜いてきたつわものたちである。企画の段階で考えると、2015年あたりから始まっているだろうし、去年「君縄」のヒットを横目に見ながら「タイミングって大事だよね」と製作者たちが胸をなでおろしている様すら、目に浮かぶ。それでなくても、今回のオープニング公開館数は、78館(公式サイトからカウント)。君縄レベルの館数に至らないのは、配給の弱さ(東北新社では、ねえ)もあると思われる。

そして、やはり、下馬評というか、タイミングというか。夏休み終了間際に公開されたとはいえ、「君縄」ほどの入れ込みは発生せず、「興行収入を見守りたい!」サイトの初日の入れ込みは、42館・2.8万席に対して2000人も行かない状況。→8/25初日の当該ブログさしたる宣伝もしていないし、この程度の館数では、どうあがいても上位にランクインできない。勢い「ヒットしている」と報道されることもない。

だが・・・
予告もほぼ見たことがない中で、この作品には「名作臭」が漂っているのだ。そう。メアリが爆死臭をまき散らしていたのと反対に。それは、丁寧な作画、鎌倉・江の島の風景が忠実に再現されていること、下町情緒がもたらす人情ものという側面・・・それを観に行った、といっても過言ではない。
迎えた16:00。入館案内放送に勇躍一歩を踏み出す。だが…がらんとしたスクリーン4番。結局14名しか同じ空間を味わうことはできなかった。それでも、初老男性ソロ/中年カップルなど、明らかに「アニメに対して拒否感の薄らいだ世代」の鑑賞もできている。

物語の詳細は、いたって平板なのであえてここでは書かない。時系列にのっとり、8/末までのひと夏の想い出、高二の夏休み、何かを成し遂げていく達成感。すべてをこの短い間で描きつつ、幼馴染同士の葛藤、わかりあえて行く過程、そして、なんといっても大団円の締めくくり。
意外にてんこ盛りにしてあるようでいて、全てすんなりと入ってくる。無駄な時間はほとんどなく、たまに早回しというか、映像だけで見せる部分もあったりするが、それがうまく時間の経過をあらわすことにつながっていく。

そして私が一番感じ入ったのが、主人公であるなぎさの"泣き"のシーンである。女優であっても、なかなかに難しい感情の発露。下手に思える人もいるかもだが、これがデビュー間もない人ができる演技ではないと言い切れる。
ことほど左様に、この作品で出てきた声優たちの「プロ度合い」が半端ない。違和感が感じられないどころか、「彼女たちは、彼女たちしか演じられない」とまで言い切ってもいいくらいのマッチングができている。ビジュアル(つまり生身)は少し置いておくとして、彼女たちのこれからに期待したいと思う。

さて、採点である。
ここはズバッと、93点としたい。
「ノーゲーム・ノーライフゼロ」を越えるほどの大感動まではなく、かといって「花火」レベルのややお粗末な脚色よりは上にしておかないと整合性が取れない。あちこちの細かいマイナスが積み重なった7点分であり、正直誤差の範囲。作劇も脚色も平均以上だったし、うまくまとまっていることも高評価の一因だ。
青春…アオハル、なんて言っていたCMもあったりするが、別に男女が淡い初恋に没頭するのが青春ではない。彼女たちのひたむきさ、まっすぐな気持ちが伝わる映像にしてあるところは当方が絶賛するに余りある。

なのに…興行は先にもあげたように芳しくない。見てもらえないことによる機会損失も甚だしい。
まともな作品が評価されないことは残念を通り越して憤りすら感じる。積めるものなら、もう一回くらいは見て確実なものにしたいと思う。