「言の葉の庭」を終える。
何度も自分で言っていたのだが、この段階で新海氏の実力を正当に評価していたら、今回の君の名は。のヒットも正当に評価できただろうし、30回台で終わっているはずがない。
開始一秒でつかんでしまうその魔力。それは、まさに彗星のカタワレ落下のシーンとかぶる。そして、オープニングにすら「罠」を仕掛けるしたたかさ。そこに気が付かなかったところは私の負けである。

もうストーリーは手の内どころか、ほぼセリフが空で言えるレベル。そんなカラオケがあったら、95点以上は確実に取れるところだと自負している。

でも、なんかこう、突き上げるような衝動にはとらわれない。その理由に気がつくのに時間はかからなかった。音響のせいである。とげとげしさのない、まろやかな音圧であるがゆえに、また、スピーカー自体も前時代的なものであったことも災いしてか、クリアネスというには程遠い部分があった。
昨年の爆音映画祭。開始一秒で感極まり、オープニングでまさかの涙腺大崩壊。それに至ったのは、やはり、音による表現が精神を高ぶらせ、感情の発露を見出したのだろうと思ったのだが、今回それほどでもない施設で見て、その想いを新たにする。

もちろん、カタワレ時以降は、「成りきる」シチュエーションだから、音の問題は軽く凌駕する。とはいえ、今まで温めていない涙腺のせいで大号泣までには至らない。この作品の肝になる部分を、初見から看破できていたのは自画自賛したいところだ。

瀧の魂の叫び、三葉の感慨。二人が二人して、名前の喪失に愕然とし、だが次の瞬間「美しくもがく」。スパークルがこれほどまでに二人を曲を通して描けている奇跡に感動する。そして、この作品もそうだが、「いやな」性格の人物は描かれていない。二人に没入できるから、最後のシーンでまた感動するのである。
「見続けることが生きること」。変な状態にとらわれている自分がいる。明日もスクリーンの前に対峙しているのだろうが…