アニメーション映画の素晴らしさ。 再認識させていただいた新海誠氏には、本当に感謝しかない。
しかし、彼にも駆け出し/熟成期というものがあることは当然である。いきなり「君縄」が生み出されたわけではないのである。
「君の名は。」から入った、にわか新海ファンとして、すでに秒速/言の葉までは鑑賞が終わっている。しかし、まさにヒヨッコプロデューサー時代の作品はどうなのだろうか?「雲のむこう、約束の場所」を鑑賞しようと思ったきっかけはそんなところである。

長編として初めての作品。しかも、日本が分断されている(北海道のみユニオンと呼ばれる占領下にある)状況というタイトな設定。理解もされにくいだろうし、そもそもそれをバックボーンにするほど緊迫した世界情勢ではない。初期設定の時点で無理というか、大ぶろしき広げ過ぎ感が漂う。
そこに出てくる青森の高校生たち。訛り一切なしの標準語。近未来とは言っても20世紀末の話。これまた、違和感甚だしい。一人の女子中学生を取りあうような二人。だが、高校に入って状況は一変する。
一人は塔の研究に没頭し、もう一人は、塔から遠ざかり東京で過ごす選択をする。そこに見え隠れするのは、佐由里との関係だった。
佐由里の特異性に気が付く博士が取った行動は、自分の手元に佐由里を置くこと。これすなわち、佐由里が再び青森に戻ってくることを意味していた。その後を追うように裕紀も青森に入り、3人が再び青森の地で合いまみえる。
そして飛行機は完成し、塔は壊され、佐由里は目覚め、ストーリーは終わりを告げる・・・

へ?????
確かに、「目覚めることで佐由里が描いていた裕紀への想いが消えていく」とか、佐由里が元いた病室で突然、裕紀が佐由里の残像と出会えるといった、「君の名は。」成分が随所にちりばめられていることは収穫だった。
「今までの作品のベスト盤にしてください」という、川村Pの言葉通り、新海氏は、エッセンスをきっちりと抉り出し、「君の名は。」に持ち込んだ。新海オタにも納得の演出。もちろん新海作品初見にもわかりやすい提示だったといえる。
だが、この作品は、いろいろと放り投げてしまったところが多すぎる。とくに北海道占領に至った経緯とかは端折ってほしくなかった。それだけではない。高校生という設定の拓也のスーパースペシャルぶりとか、周りの大人のうさん臭さとか、その拓也と研究員が恋している設定(あの大人顔負けの演技は明らかにおかしい)…
最大の要因は「誰にも家族が存在しない」という点だ。中学生3人もそうだし、鉄工所の社長も北海道に妻子がいる設定。これが物語の厚みをスポイルしている。だいたい、親を描かない=まともな大人が一人もいない ということの表れだからである。鉄工所の社長は、南北統一を目指す活動家、博士は塔が作り出す超常現象を研究できればいいと思っている。

登場人物全員が好き勝手に動いているように感じたのも一度や二度ではない。場面転換ごとにブラックアウトさせる手法は、ぶつ切り感を漂わせる。中盤まで、まとまりを感じられなかったのは偽らざるところである。後半も、何とか飛行機が飛んで目的は達成されるわけだが、そこに至る都合の良さや、いろいろと突っ込みどころ満載なところ、ほったらかしの伏線など。料理に例えるなら、材料を取りそろえすぎて、下ごしらえ段階で止まっていたり、味付けが不十分だったり、盛り付けが雑だったりといいところなしに終わった感じが残った。
というわけで採点。作画はあの当時の水準で中の上程度。笑える場所は作ってあったのだけは少しだけ評価ポイントだ。でも総じてとっ散らかっている感は否めない。クリーンヒットが連続しないので得点につながらない、と言った感じだ。そんな調子で勝てるわけがない。久しぶりの40点(最低点か?)とする。