アニメーションの表現力の豊かさ。特撮でないとできないことを映像にできてしまう。そして、役者にできない感情の起伏や表情の表現を具現化できる。そして、それを強調して描くこともできる。
2018年、「リズと青い鳥」の、そう言った一挙手一投足の細かさにしてやられ、今年のアニメーション映画としては一位になってしまった感があるのだが、予告の段階で名作感がふつふつとわいていたのがこの作品「若おかみは小学生!」だった。
映画公開は、9/21から。しかも、同時期にテレビアニメもやっており、9/23が最終回。30分/2話スタイルで経過したので12回放送/24話〆となっている。
劇場版公開から、twitter上では「名作」「号泣必至」といった内容が流れてくる。すでに複数回観ているフォロワー氏も散見。たしかに予告の時点で名作か、と感じられたわけだが、そこまで中毒になれる作品なのか、は観てみるまでわからない、と言ったところだった。

原作/アニメ未見でスクリーンに対峙。連休最終日/夕方回であるにもかかわらず、なんと観客は数えるほど。ソロ男性客が圧倒的(6人)だが、当方が最高齢ともくろんでいたら60代男性を認めてがっかり。親子連れも2組、カップル50代、以上。「えええ、こんなんですか…」となったのは言うまでもない。
導入部は、「生かされた」おっこの経過が見られる。一家もろとも、ではなく、シートベルトしていたのに車外に放り出されるおっこ。背後霊・守護神のようなウリ坊の存在。
そして服装からもわかる通り、彼は実は祖母の幼馴染であった。写真で振り返り、彼だと悟るおっこ。だが、大人からは全く見えないウリ坊の、子供ながらの物言いは、おっこを困惑させつつも、「春の屋」の一員としてやっていくことにつながっていく。
時折やってくる様々な客。滅私奉公、「お客様のために」…なんだか、某スーパーの創設者が孤軍奮闘しているみたいに見えて、少しだけウルッとなる。
徐々に成長し、幽霊たちとも関係が希薄になっていく。そこへやってきたのは回復途上で湯治に来た男性の一家。だが、全身にダメージを受けた体はものを満足に受け入れられない。それを何とかしようとするおっこ。ライバル旅館で、その前段の神楽けいこで仲たがい同然の関係になってしまった真月に教えを乞うおっこ。実際にこれができる胆力が大人でもあるかと言ったら、そうはならないだろう。
しかしこの捨て身の作戦が、男性の食を一変させる。次から次に出てくる料理を平らげる男性。だが、その口から明かされる、真実はおっこに激しい衝動をもたらす。そう。両親を死に追いやった、大型トラックのドライバーだったのだ。

ここからの作劇は、マジで感動巨編である。あえて書かない。
ラストは、真月と御神楽を踊りながら、両脇にウリ坊と美陽を従え、彼らを送るかのごとくな演出になっている。ラストシーンの花に囲まれる演出は、ウリ坊が見せた幻想的な風景に寄せてあり、しっかりと復唱してくれている。

さて、採点である。
「この作品の評価のポイントは」…と、某夏井先生の定型句で言いたくなってしまう今日この頃なのだが、それはズバリ、「ネアカ、のびのび、へこたれず」なおっこを描けている点である。
普通に考えて、身寄りが旅館にしかないとはいっても、自分から旅館を継ぐ、などということは言い出しにくいものである。「行ってきます」と声を出す、誰もいない自宅。それは今までの自分との決別にもかかわってくる。それまでおそらく甘えん坊で両親の愛を一身に受けていただけのおっこが二人を時々幻影やら、夢に見ながら、日々成長していく。ラスト前、真月に言われた一言は、それを発した彼女にも強烈なインパクトを植え付けたに違いない。

果たして、私を含めた接客業にいそしむ人々は、おっこのような行動ができるだろうか?特に宿泊施設は、今回題材にもなった「お客様の負」というものを極端に嫌う。何とかできないか、と知恵を絞ることが時折見えてくるわけだが、私が一番感じ入ったのは、やはり心を開けば道も開ける、という、あの秋好旅館でのシークエンスだ。ライバルともいえない、いわばガリバーに教えを乞う。それができる謙虚さ、必死さ。おっこに学ぶべきところはありすぎるくらいある。
得点は92点とした。シーンの入れ替わりや、長回しにせず落ち着かないカット割りは、やや忙しなく感じられたからである。「雑」というよりは、盛り込むことが多すぎて駆け足になったと言ったところか。でも、見せ場ではしっかりと見せる芝居にしてあるところはさすがである。
若干劇伴に注文が付く程度で、音楽的にはかなり良好。困惑したときの「シェェ―」に似たポーズの頻出ぶりが笑いを誘う。
テレビ版のキャスティングがほぼそのまま移植でもされたかのようにスライド登板。おっこの両親こそ、俳優吹替えになっているのだが、それ自体を感じられない部分もあったりした。つまり、今回の吹替え陣は、近年まれに見る成功例として挙げられよう。誰一人として棒に感じられる役者がいない。特に水領役がホラン千秋だとは全く気が付かなかった。そして何より、おっこ役の小林星蘭のあたりっぷりよ。ほぼ同い年なのもプラスに出ているかもだが、泣きの演技は、思い出しただけで涙腺がやばい。一応女優歴は長い(すでに9年?!)彼女だが、これができるようになれば、今後の活躍の幅も広がろうというものである。

某フォロワー氏は、「きみの声をとどけたい」枠として本作を上げている。そこまでの作劇や、エモーショナルな部分は控えめだが、わかりやすさ、琴線に触れる内容、そして年齢関係なく、ひたむきなおっこを見て「明日も頑張ろう」と思える爽快感。「君の名は。」クラスの、記録を残すことはできなくても、記憶に残る一作になったことは間違いない。お子様向けと言えるが、それだけにとどまらない。大まではつかないが、傑作の一角に鎮座したことは確定した。