20代前半ごろまで、当方はいっぱしの鉄道ファンだった。もっとも昨今問題ばかりを起こしている撮り鉄ではなく、旅行記や行く先々の紀行を楽しむ旅鉄という部類に属する。もちろん、旅先で写真を取ることもあるが、せいぜいスナップ程度。いまでこそデジカメでいくらでもシャッターが押せる時代だが、昔はフィルムが付き物なので、そう潤沢に撮って撮って撮りまくるほどではなかった。

2018年秋は、鉄道会社がバックグラウンドに付いた映画が2本も公開された。一つは、「肥薩おれんじ鉄道」という、旧の鹿児島本線を走る第三セクターの運転士を志す未亡人と、その家族を描いた「かぞくいろ」、もう一つは、東京で夢破れた芸人が地元私鉄のアテンダントに活路を見出していく「えちてつ物語」である。
のちのち「比較検討倶楽部」も立ち上げるつもりにしているが、すでにブログの記事にもしているように、全国公開封切初日は11月23日。あー、この日に川西店(0279)のオープンがなければ、そして閉鎖予定店舗を回るべく京都に出向いてなければ…いろいろと重なってしまった休日に忸怩たる思いが募る。
一旦見逃すと、なかなかいい時間帯で見ることがかなわない。だが、シネ・リーブル神戸でベリーベストな時間帯を発見。1/3が最終日であることも手伝って、矢も楯もたまらず現地に向かう。

果たせるかな、場内は30人弱の観客を認めてほっと胸をなでおろす。男性ソロが比較的多く、カップルも数組。平均はさすがに40代後半までとなったが、20代前半の層も来ていたのは意外である。
こちらのストーリーは平板そのもの。友人の結婚式に向かったものの、余興は大失敗。あげく列席者の服を汚してしまう。実家に帰れば兄からは邪険にされる。家を出た経緯に問題がありそうに書いてあるのは面白い。
アテンダントの仕事を頼まれる主人公。相方の行く先にめどがついたこともあり自身は故郷で頑張ってみようと志す。ちなみに新人候補性は3人。キャラ立ちがなかなか鋭かった。
ここからは研修を通しての地元の方との触れ合いが描かれる。おそらく、セリフアリの人たちは全員俳優さんだろう(腰の曲がった行商婆さんであれ)が、それ相応に素人っぽさも見えてなかなか悪くない。
で、いよいよの重大事件が巻き起こる。ここは実に"映画的"。何しろ、使っている車両はばらばら。ここはしっかりと鉄道ファンのみならず、細かい重箱の隅をつつくことを趣味にしている人から突っ込まれないようにしてほしかったところだ。
最終盤の、兄弟の想像上の会話は、むしろ不必要。来るのかどうかわからない妹を待ちわびる不安げな兄をもう少し強調しておけば、と悔やまれる。

採点の方だが、この作品に関しては「主役」の演技は度外視してみることにする。もちろんうまければ大幅プラス加点もあったが、想定の範囲内。むしろ悪目立ちするやらかした部分が多かった。ほかの部分では、実は劇伴に大きく加点したい。地元の高校の吹奏楽部の演奏を使うという、大胆なキャスティングなのだが、全然違和感ない。ストーリーも大筋平板だが、ところどころに山を用意してあるところは上げ/下げを意識して作ったんだろうな、とわかる。もちろん「滑っている」箇所もないわけではなく、時々「あーあ」となったりするのがもったいない。
というわけで85点というツイッターのファーストインプレッションままとする。「かぞくいろ」にあったような、不可解な作劇がなかったことが一番だし、何より主役の頑張り、冒頓さが生きている。
上手に演じる必要はない。真摯に役に向き合ってもらえたらそれでいいのだ。もちろん大女優、圧巻の演技、とはとてもじゃないが持ち上げすぎ。課題はあったが、「かぞくいろ」よりは見どころの多い作品だった。