邦画のビッグバジェット作は、そうそうお目にかかれるものではない。いわゆるスイーツ映画の場合、よう使って数億円、10億以上なら完全に赤字覚悟である。
であるから、壮大な歴史ロマンを感じる、そして中国の成り立ちにもかかわる、最初の統一国家・秦の誕生物語でもある「キングダム」が、中国ロケも含めて、そこそこの予算でもって製作されたことは日本映画界にとっても、またそれを見てもらいたいと思う中国の興行界にしても、一つの転換点ともみられるのである。
一人の奴隷の青年が、みるみる武功を上げて成長していくさまを描いた漫画「キングダム」は、すでに既刊50巻オーバー。だが、今回の実写版は、秦国王・政との出会いから王都奪還までを描いたにとどまっている。分量からしても1/10程度。主人公・信の成長物語の端緒としてはこんなものなのかもしれない。

というわけでストーリーは、皆様ご存知の通り。漂と信という二人の奴隷の少年が抱く夢は「天下の大将軍」。だが、漂はなぜか王宮に"スカウト"される。その先で待っていた、漂の運命が、信を更なる高みへと連れていくことになる。
漂が今わの際に託した布地に描かれた場所に行くと、そこには漂とうり二つの人物が。彼こそが秦の国王である政その人だった。刺客を排除した信だったが、目の前の政をどうすべきか測りかねていた。そこへもう一人の従者である河了貂が現れる。かくして3人の逃避行が始まる。
落ち合う場所で腹心である昌文君と出会える一行。ここで「山の民」との共闘が議論される。山の民の城での政の一大演説は、昨今の情勢をも反映したものではないか、とさえ思う。「遺恨よりも未来」を問うた政の説得に山の民も動く。
かくして王都奪還が議論される。騎馬で王都に向かう彼ら。50名の手勢だけとはいいながら、すんなり王宮に入った一行の激しいバトルがそこに展開する。もちろん、いろいろなことはありこそすれ、政たちの勝利で終了する。このあたりの描写は、あまりに無理筋なのだが、そこは突っ込まないでおく。
異母兄弟のこぶしでの和解もあってラストシーン。いよいよ奴隷の青年からの飛躍が誓われるところで終幕となる。

得点は96点とかなりの高評価である。
実は、この作品に限らず、「また○○」という、キャスティングに異を唱える人たちが意外と多くいたりする。今作の主役たる、山賢人にしても、「いや、これってプロデューサーが連れてきたから」と監督が暴露するなど、「この人を使っておけば安心」という固定化された観念も意識してのことだと思う。
だが、それこそもういい歳したオッサンが相も変わらず学生服来ているわけではあるまいし、いい加減「また山」なんて言う見方は止めた方がいいと思ったりしている。それは私自身が、「羊と鋼の森」で見た彼が、一皮むけた、新境地に至っていることに気が付いたからである。
もう彼がスイーツ映画の常連に戻ることは考えにくい。俳優としてのキャリアを積むべき時期にあって、この作品と出会えたのは「運命」のような気さえする。ただただ怒ってばかり、口も悪いし態度も不遜。しかしそういう一本調子の役をぶれずに演じるってほかの作品とは違う側面がある。テンションの保ち方が実に難しいと感じるのだ。なので「上手い」とは感じないのだが「凄い」とは感じられるのだ。セリフが今様になっているところはご愛敬であるとはいえ、そう言う芝居ができるようになったということなのだ。
脇を固める俳優陣の中で、MVPを上げるとするならば、一にも二にも王騎役の大沢たかおを推す。彼の怪演は、漫画の王騎の設定そのまま。ゆっくりとした少し艶っぽい口調や、矛を振り回しての一網打尽だとか、ほかのきっちり芝居している人たちを見事に喰ってくれた。そして長澤まさみ嬢の妖艶ながら、一糸乱れぬ殺陣は、本作のアクションシーンの中でも傑出の出来であると断言する。
壮大な原作のとっかかりだけ。それでここまで予算もかけ、大々的にPRもしている。東宝実写陣の並々ならぬ意欲は買うし、一か月で即終了、というレベルで終わりそうもない。「コナン」といい、今年のGWは、劇場がかなりの活況を呈しそうである。