時代劇がテレビでそれほど多く見られなくなって久しい。「水戸黄門」「暴れん坊将軍」「必殺シリーズ」「鬼平犯科帳」「長七郎江戸日記」などなど、テレビドラマで週一で放送できていた昭和末期から平成初期にかけてが、時代劇ドラマの全盛期だった。
なぜ作られなくなったか?理由は時代考証……要するにちょんまげ、和服と言ったふた手間も三手間もかかる準備に、人手が追いついていないところが影響しているんだと思っている。
フィルムで無くビデオ撮りされて映像を作る部分では簡便さが増したはずだが、それでも時代劇ドラマは死滅寸前。たまあにNHKが忘れたころにドラマをやったりしているが、それでも数話完結、半年ものなんて作る余裕すらないのだろう。

そこへ行くと、スクリーンで作られる時代劇はここ最近本数を増している。そのものずばりの「関ヶ原」、「散り椿」と言った正統派から、ハイブリッドといえる「銀魂」、「るろうに剣心」、ギャグテイストの「蚤とり侍」や「さや侍」と、ジャンルもすこぶる多くなっている。今年から来年にかけてこの時代劇映画が一気に公開される(サムライマラソン/多十郎殉愛記、予告でもあった「決算!忠臣蔵」などなど)。
そんな中にあって、テレビの予告があまりにふんわりテイストで「そんなことないだろう」と思っていた、「居眠り磐音」の評価が高い部分が漏れ聞こえる。そんなら、と、ちょうど、職の切り替わりの最終日に当たる、20日に見ておこうということになった。そしてその日は松竹系のSMTのサービスデーでもある。

朝一の回に余裕で到着するのだが、場内は、10名ちょっと超えるくらい。まあ、平日、それも月曜の朝から勢い込んでスクリーンに対峙できるのは、たまたま休みだったか、本物の映画好きしか参集しないだろう。平均年齢は60歳手前くらい。男性がやや多めだったが、夫婦での鑑賞の組数も無視できない。

ストーリーは、大分県のとある藩の、江戸詰め(派遣されていた)の3人の武士の帰郷からスタートするのだが、それがたちまち血なまぐさいものに切り替わっていく。幼馴染どおしで兄弟が婚姻の契りを交わしていることが余計に事態を悪化させてしまう。不義密通を疑われた妻を手打ちにしたことから、その兄が乗りこみ、まさに見境ない殺人鬼に変貌を遂げていく。それをやるかたなく見守るしかない磐音。しかし、結局大の親友を手にかけなくてはいけなくなってしまう。
そして舞台は江戸に。浪人に身をやつした磐音は長屋生活で日々の暮らしもままならない。それでも大家と、大家の娘で両替商に勤めている娘の尽力でその両替商の用心棒に納まる。
だが、そこで両替のからくりをうまく利用した錬金術を編み出そうとしている別の両替商と対立してしまう。刺客は仕向けられ、挙句大量な仕掛けで敵対する両替商をつぶそう、ひいてはその政策を取った老中・田沼意次の失脚まで画策しようとしていたのだった。
だが、それも、磐音の機転で難を逃れる。それどころか、やりすぎた両替商の方が贋金を紛れ込ませていたことが露見しておとり潰しになるところまで。
それでも磐音の心は晴れない。なんといっても故郷に残してきた許嫁の処遇が気になっていたのだったが……

この作品のキーワードは、ど素人でもすぐに見抜ける。それは「南天」である。南天の花の咲く場所でのプロポーズ、赤く実のなる冬場の道場で手紙を読むシーン、そしてラストの橋のたもとで咲く南天の花。本当は届けるはずだった匂い袋にも南天の刺繍。もうここまでくると狙ってというよりも「これでもか」と畳みかけているようにすら思える。
南天が指し示すその先はよくわからない。だが、これが彼らの「ムスビ」であったとするなら、これはこれですごい役割を果たしていたことになる。
というわけで採点なのだが、もうね。松坂桃李のかっこいいこと。今まではそれほど身長も高くないし、主役を演じるとなっても少しアピール度には欠けていた部分もある。だが時代劇は逆に身長がありすぎるのは違和感でしかない。ちょうどいい背格好に収まっているから、主役でも大丈夫なのだ。
そして、殺陣のうまいこと。もちろん、それ相応に練習・訓練はしただろうし、そのたまものであると思うのだが、美しいとさえ思える動きにファンならずともめろめろにさせられてしまう。芝居の方は、確かに「……」なところは否定しないが、それはこれからのお話。というわけで94点とかなりの高得点を記録する。

得点の最大の配点箇所は、「よもやの大逆転」が描かれていたことである。お互い武家の出であるとはいってももう一人は手の届かないところにまで"出世"してしまった存在。それでもお互いを思い続けているという、ちょっと「秒速」っぽいクライマックスには涙腺が大きく作用する。あの手紙のシーンはダメである。
それにしても、よくぞここまでスターを集めたものだと思う。ちょい役でも手を抜かない(特別出演枠が大半だけど)し、大家役の梅雀がきっちりとした押さえキャラになっている。
ストーリーに無理なところは一切なかったし、むしろ流れるようなよどみのなさがすごかった。悪徳両替商を手玉に取る下りはまさに圧巻だった。
時代劇映画は意外と良質なものが多いわけだが、それはまだノウハウが継承されているからだと思う。令和の時代になって、その手法が失われないようにしなくてはならない。