久しぶりのシネ・リーブルで、「これ面白そう」となったのがこの映画……ハーツ・ビート・ラウドだった。しがない町のLPレコード店を閉鎖することになった、音楽に対する情熱を失っていない初老の男性と、その娘……非凡な才能に父が気が付き、父と娘でバンドを結成しようとするのだが、というのがアウトラインだったのだが、その実、どう展開するのか、興味津々だった。

で、勇躍同所に向かうのだが、いきなり座席が細かく表示される。そう。久しぶりの「アネックス」での鑑賞と相成ったのである。507席で当方が三人目。最終的には8人余りが参集したが、それでもがらっがらの劇場に苦笑する。小品であり、名だたる俳優も出ていない(一瞬、特別出演的な、アップのあるギタリスト?風の人物が出てきたのだが、誰が誰やらわかりませんw)。音楽映画であることはわかっていたのだが、どこまで話が深耕するのか。観どころはこれ一点だった。

冒頭、客と店主たる父親との丁々発止で、「こいつ、やる気なさ過ぎ」と思える映像を提示する。こんな調子でよくもまあ家賃が払えたものである。だが、一人娘の進学に舵を切った父親はレコード店を閉める決断をする。そこにあったのは、ただ単に父親としてではなく、母親に対する息子としての責務を果たさなくては、という思いもあったことだろう。ひどくはないが、善悪が付きにくくなっている症状が気にもなる。
一方の娘・サムは、利発な点を最初っから見せる。昔なら難しかったはずの黒人と白人のハーフという微妙な立ち位置も、のちになって分かってくる。そして父と娘の初ツーショットは、見事に父親が子供に帰ったような面白すぎる作劇で笑わせる。一種駄々をこねる中年オヤジ。他方、進学の夢の実現こそが最優先の娘。だが、結局音楽一家の血筋は争えず、セッションをすることになる。
出来上がった曲を嬉々として配信サイトのアップロードする父は、「バンドじゃない」というバンド名で登録するなど、ノリノリ。なじみの店で曲がかかった日にゃ、天にも舞い上がりそうなハイテンション。でも、そうした一時的な事柄も、結局子離れが目前に迫ってくると情緒が不安定になっていく。
この物語最大の見どころの一つは、この父と娘の手加減なしのぶつかり合いだった。だが、ここでも父は折れてしまう。娘の意志の堅さに理解を示したのだった。
それでも父の周りで物語は動く。大家は出資を願い出るが、自分ではないほかの男性との仲を見てその申し出を断ったり、唯一無二の親友からも結局いい助言は得られず。そして営業最終日を迎える。
在庫処分の価格設定にまで意見される父だったが、ここは娘に従い、出物は価格を高めに変更したりしていた。そして娘の一言で、急遽「バンドじゃない」の最初で最後のミニライブが模様されるのだった。

ここで終わっていれば、あるいは、題名にもなっている「ハート・ビート・ラウド」を再度二人で演奏させて終わらせてくれていれば90点以上は軽くあった。だが、ここで、ライブあとの後日談が少し冗長過ぎた。娘が一年遅らせてもいい?と言い出したり、大家との関係も修復されていたり。ラストシーンはいきなり一人で演奏する、妙なカットで終幕。ちょっともったいなかった。90点から少し落ちる86点をファーストとした。
でも、歌詞の破壊力に涙腺が反応してしまった。それもこれも、娘のガールフレンド(!!)の発言から引っ張ってきているのがわかるだけに、また、お互い愛し合っている者同士の目線のコンタクトを見せられるだけで、おいおい、とまではないものの、じゅわーっと来てしまう。
ライブでしか聞けなかった2曲は、ほどほどにパンチも効いていたし、ラストをかざった「エブリシング・マスト・ゴー」は、それでも前を向いていかなきゃ、という歌詞がこれまたグサグサと刺さってくる。

つまり、得点的には凡庸だが、音楽的/歌詞の内容はところどころで刺さってくるから始末が悪い。それだけで元気がもらえるというか、歌の持つ力を再認識させてくれる。