今まで、私は、「君の名は。」の全盛期のこのような状態を知らない。
私自身の初見は2016.10.1。100億突破の、非ジブリ系アニメーションということで、「そんなにすごいなら」という軽い気持ちで見に行った。

それが今では、月に一回、どころではなく、週に一回は劇場に出かける状態。話題作のうち、シリーズものはできるだけ敬遠しているのだが、それでもそこそこに本数/作品数だけは積んでいる。そう。映画鑑賞が趣味のようになってしまったのである。
「天気の子」は、そんな私に対する一種の"挑戦状"だった。
 "今までよくスクリーンに対峙してもらってくれた。様々な作品に触れたことで見る目も変わっただろう。だとしたら、この作品も、その広い視野でもって評価してくれればそれでいい。では、始めていただこうか"

そして初見。千々に乱れる感情、答えの見つからない内容。ストーリーはこんなに平易なのにどうしてここまで難解なのだろうか、と思い悩む時間帯があった。

クールダウンする目的も兼ねて、評価が高く、今や一種"時の人"カテゴリに属する香取慎吾氏主演の「凪待ち」を鑑賞することにした。
なんば8番は、朝一一回のみのこの作品に大勢が参集した。おそらく満席に近い入れ込みになっているはずだ。平均年齢は、香取ファンが多勢を占めたのか、50代後半。男女比は、ソロ女性の比率の高さで、2:3で若干女性優位。

ストーリーを簡単に言うと、とてつもない自堕落な男性が、田舎の人情に触れて、改心し、生きていくという単純明快。そこに愛する人の死といわれなき誹謗中傷、裏切り、妬みがこれでもかと謳われる。
正直、善人は、身内だけ、という恐ろしさ。義理の……とまではいかなかったが、父親にしたところで、当初は受け入れてもらえなかった。その代わり、リリー・フランキー演じる小野寺だけは陰になり日向になり援助の手を差し伸べる。その過剰ぶりに「おや?」と感じた違和感は、最後半のとてつもない事実の提示でうならされた。

とはいえ、この事実に至る前提条件が何もないのである。理由が必要だとは思うのだが、一つ上げるとするならば、誰も知らない「行きたかった島」の所在地をすらすらいえる小野寺。そこまで親密になっていたということが言いたかったのだろうが、その間隙がないうえに、ほのめかす描写もないので少し説明不足には映った。
それでも93点は差し上げたい。
なんといっても、ギャンブル断ち(競輪)しているのに、ちょっと金を手にすると、悪い虫が出てきてしまう。それをカメラを倒して「堕ちていく」風に見せる描写には喝采を惜しまない。
ピントを発言者に合わせるテクニックも、長回しを意識しつつも、その人の感情をクリアに映し出す。面倒くさい要求だが、これができるのが白石組なのだろう。

面白いとは到底思えん位、くず人間たちの"狂演"がみられるところでは、例えば印刷所の社長にしたところで完全に疑ってかかっており、田舎社会の封建制、よそ者を受け入れない頑固な土地柄というものをまざまざと見せつける。挙句刑事まで。これで平常心でいろという方がどうかしている。
婚姻届けを海に流してエンドなのだが、この際のバックの映像は、いやがうえにも「津波」の恐ろしさを描いている。救いのあったラストでもあったし、読了感はなかなかあった。