OSシネマズミント神戸では、「引っ越し大名!」はやってくれていなかった。
仕方ない、とばかりに系列の神戸ハーバーランドに移動。勢い込んでチケットを買ったまではよかったのだが、「引っ越し」のラストが17:40、なのに連チャンにしようと思った13回目の「天気の子」のスタートが17:20!!

連チャン鑑賞で初めてやらかした「ダブり」。仕方ないので、引っ越しは演者までを確認して退出、天気の子は、15分遅れくらいは確定なので、あえて座席に座らず見ることにした。

江戸時代における国替え=領地の異動は、大名に謀反を起こさせるための蓄財を防ぐ意味合いが大きく、参勤交代と並ぶ一種の財政出動、「公共投資」ともいえる。
その部分では江戸幕府の大名に力を持たせない政策は褒められるわけだが、では大名側はどうか、というと、そのための費用の捻出、準備等に無駄な労力を取られてしまう。時の政府のおかげで「前に進む善政」が敷きにくくなってしまうのである。

元は姫路を居城にしていた松平家に突如降りかかった国替え、しかも石高は減らされるという緊急事態。石高はすなわち、自分の家の大きさであり、減らされるとなると強烈なダウンサイジングを余儀なくされる。それでも費用も、期限もどんどん迫ってくる。
引っ越しに関わる総取締に選ばれたのは、しがない書庫番の星野源演じる武士。役付きなどどこ吹く風、の本好きの彼が、どうやって国難に立ち向かうのかが本作の見どころである。

ファーストインプレッションだが、大それた大仕掛けもなく、むしろ細かい銭勘定やトラブルをメインに描くと思っていたから、意外なことにすんなり流れた脚本には違和感というか、「これでいいの?」と思ってしまう部分が多かった。
傑出なのは、リストラの描写と、加増され、帰農してしまった藩士を迎えようとするシークエンスだ。姫路で農家やってくれ、などと言われるのが今までそしりの対象にしていた書庫番ともなれば、かなりの反発は出たはず。だが、それに対する描写はほぼなく、いかに彼が信頼を勝ち取ったのかが描かれる。そして10数年後に迎えに行くシーンも、彼らがどんな思いでそれに邁進していたのかを知らされ、しかも「帰らない」という人まで出てくる始末。藩と自分の生活の、どちらが大事かを見極めたからこその決断には感じ入る。
ラストの石碑のシーンは、「これでまとめるか」となる、監督の采配が光った。領主役である及川光博の感極まった演技は、こちらも胸をえぐられる。ミッチーといえば、「君は月夜に光り輝く」でも、死に至る娘の実の父親(離婚して母親の姓を名乗っていたので少し混乱した)役を演じたのだが、彼のあの演技は周りをつかむ、珠玉の演技だ。

ということで採点はおとなしめの89点にする。
星野源の芝居の安定ぶり(それほどいい意味では言っていない)がすべてであるようにも思うし、逆にこの役どころをキャラのバッチバチに立った俳優で演じるのは難しい。さらに言うなら、高畑充希演じる元引っ越し指南役の娘との絡みも、こうなることが前提なのだから、でこぼこコンビとしての星野のキャラクターが生かされないといけない。
つまり、キャスティングはほぼ満点なのだが、やっぱり全体像として輪郭がぼやけてしまうのである。時代劇のエンタメとしての役割は十分果たしているが、かといって名作とはとてもいいがたい。もっともっとドタバタしていることを期待していただけに、その部分でも満足度が低くなってしまったのは仕方ないか。