「あれ?2019年ってまだ終わってないよね?」
それはよくわかっている。2018.12から、2019.11までの1年間に見た映画のランキングをつけるという便宜上、2019”年度”最後の映画鑑賞になった、ということが言いたかったのだ。
そして、映画のタイトルにご注目いただきたい。ここで当方は、あえて「シティーハンター」を使わなかった。一つには、これが原題であり、フランスではこれで通ること、二つ目には、確かにリョウとカオリのストーリーだが、完全に「シティーハンター」を標榜できるかと言ったらそこまでではないと思えたからだ。
だが、主演/脚本/監督と、八面六臂の活躍だった、フィリップ・ラショー氏のシティーハンター愛はスクリーンからあふれんばかりだった。ファルコン(海坊主)は、今回は敵対勢力という設定だったのだが、最後半では和解している風にも描かれ、サエコに相当する役まで設定してあるというこだわりぶり。なんといっても、一番の驚きは、カオリの兄・ヒデユキまで設定されているというのだからあっけにとられる。

仕事終わりともなると、どうしてもラスト上映回にならざるを得ない。それでも、電車を駆って、西宮OSまで。参集したのは、30人余り。ものの見事におっさんホイホイなわけだが、やはり「どこまでいい出来なのか」を確かめたい玄人衆が多く見られた。平均年齢は50代前半、男女比は4:1で男性優位。

冒頭。手術の場面からのスタート。ここで患者役でいきなりの神谷明氏登場。おいおい、のっけから飛ばしてくれるじゃないの、と思う間もなく、手術室に冴羽とファルコンが乱入してきてハチャメチャ大暴れ。ネタフリだったオシロスコープが局部をパルスで表現するなど、もう笑いを押さえるのに必死。表現コードの緩めのフランスでは、おっ立っている一物もそのまま使えるみたいで、日本版では、カラスクンで隠す苦肉の策。ていうか、こうした直接的な表現でつかんだからこそ、本国でそこそこにヒットしたんではなかろうか?
依頼人はそこら辺に居るおっさんで、冴羽の心は千々に乱れる。だが、「惚れ薬」といえる香水を嗅がされ、そのおっさんに淡い恋心を抱いてしまったりして、作品の世界観もうまく引き出している。
本作の愁眉は、なんといっても、絡みまくる男性二人のコメディーリリーフの存在である。一人は、カオリにかけられた香水を嗅いでしまった青年・ポンチョ、もう一人は、香水入りのカバンを間違えて持ち帰ってその効力を秘密裏に知ったスキッピーである。
実際、とんでもなくすっごい美人は最終最後まで出てこない(それも黒人ということで、露出を控えたところは多分にあっただろう)。本来なら、依頼人に気を持ってしまうのが今までだったのに、今回は、薬のせいで一応依頼人に気を持つのだが、相手が男としたところがすごいのだ。でもそれだと絵面的にもつまらない。だから、死にはしないけれど、ひどい目にあってしまう男性、というもので釣り合いをとったとみていいと思う。
紆余曲折は、退屈させないで見せることに腐心しながら、脇役にも花を持たせるやり方。冴羽とカオリの間にひびが入るのもいつも通り。そして、敵の手に落ちてしまうのもお約束。
クライマックスの銃撃戦は、どちらかというと、派手さだけに特化したと思う。爆弾をカオリから奪い、自らが付けて敵と対峙する、まさに「死ぬと思わば勝利がほほ笑む」不退転の決意をした冴羽が描かれるのだが、カオリと扉一枚隔てて別れを演出するところは「そんなんで終わるわけないやろ」と思わずにはいられない。

得点は93点。なにより、今までのシティーハンターは、依頼人との関係を深耕させることでストーリーを作ってきたという側面がある。それをやらずに、男性脇役に笑いをもたらさせるというやり方は、原作者である北条司氏もうなったのもうなづける。冴羽目線カメラ、といういまどきの配信世代にも訴求しやすい映像の演出も買える。原作愛に満ち溢れていて、改変や独自解釈のない冴羽にカオリ、ほかのメインキャラであり、日本人的なキャスティングがみっちりとはまっていたのもよかった。
最後のどんでん返しもお見事。ラストの落ちのつけ方も、大絶賛を惜しみなく与えたい。不満があるとするならば、やはりタイトルであり、改変しないとみてくれないとは言うものの、これでよかったのかな、と思わずにはいられない。
この高得点が指し示すように、アニメの実写化の一つの成功事例として、今後お手本にされるのではないか、と思ったりしている。小栗ルパンが大失敗したのは、キャラクターに小栗が負けているから。ラショー冴羽は、冴羽になりきるところから入っているから、アニメ・原作から抜け出したように感じたのだ。
「君の名は。」の実写化がこのスタイルで映像化されているのなら、大号泣間違いなし、なのだが、JJエイプラムス氏は、どのように細工してくるのだろうか?