閉鎖的空間での濃厚接触。ライブハウスや院内感染と言った要件を満たしてしまっている施設で拡散が始まってしまっている新型コロナウィルス。日本では爆発的な患者の急増は初期対応がよかったからなのか、あまり発生していないが、欧米ではすでに5ケタを数える患者数になっており、中国のことを笑えなくなっている状況が日々報告されている。
本当に劇場などを閉鎖している国もかなりの数に上っているのだが、日本はそこまでの強攻策をとらないでやれている。その代わり、海外からの映画導入が大作中心にほぼ途絶。邦画も、動員をけん引するべき「ドラえもん」「プリキュア」の公開延期で正直スクリーンは大量の空きが出てくる事態になっている。
そんな中、邦画の小品系は公開を決断。3/20初日となった2作品に照準を当てて当方は久しぶりのTOHO西宮OSに向かう。
一本目にしたのが「一度死んでみた」。広瀬すずの熱演がどう出るのか、と言ったところが気になっていた。とはいうものの、「どうせハズレなんじゃねえか」という思いが、ポイント鑑賞という「金を払いたくない」感情に結びつく。
場内は、2割ほど。祝日、上映初回という割にはそこそこ入っているという印象だった。
デスメタルバンドのボーカルという設定の広瀬すずの演じる七瀬。父親のことが大っ嫌いで、同じ空間に居ても境界線を設けてそこに立ち入らせなかったり、洗濯機も個別。それが可能なのも、父親は製薬会社の社長兼研究者。それでも、彼女が幼少のころから仕事のことが頭から離れない研究者脳であり、なんでも元素に例えたりする状態。それが嫌で嫌でたまらない七瀬は、「魂ズ」というバンドで「一度死んでくれ」なんていう曲で父親をDISりながら聴衆を魅了していた。
そこへ降ってわいた、ライバルの製薬会社の買収オファー。もちろん突っぱねるわけだが、そこからライバル会社の攻勢が始まっていく。その途上で、技術が漏れていることに気が付いた社長は、自分の会社の開発した、「2日間仮死状態になる」薬を使って一度死んでみることで黒幕や内幕を暴こうとするのだった。
この作品の裏テーマは、ズバリ、家族の再生である。
会社のことばかりだと思っていた父親は、実は、難病の妻を救える新薬の開発をしていたのだが、間に合わなかったことも劇中でいわれる。死の間際にあって研究を止められない研究バカではなかったことを七瀬が知ることで、父の母に対する愛情や、仕事に対する情熱というものに気が付いていくのだった。
彼女が言い続けた「死ね」の言葉は、自分と向き合ってくれない父へのシグナルでもあった。だから、実際死んでしまった時の彼女の喪失感は半端なかったと思う。
そして死んでしまってからの作劇の面白いこと。当然仮死状態なので「安置」場所はなぜか食堂。せめて会議室にしとけよ、と言いたいところなのだが、こうしたところに面白味を感じる。死に顔もおちょくっているようだったし、実際には仮死状態なのに幽体離脱しているところも漫画的だった。
三途の川を渡る演出も面白い。導師といえる火野(リリー・フランキー)が手引きするのだが、なんで彼の名前が火野なのか、というところが、のちのとあるシーンでピタリ合致するという面白さにもつながる。あー、CM好きでよかったwwww
得点は、望外の95点。何しろテンポがすこぶるいいのだ。
主役の広瀬すずの、今までと違う一面には脱帽である。「ラストレター」とか、ああいう清楚で普通の女子高生しか適役はないと思っていた私がバカだった。しっかり役作りをして臨んだだけあって、感情のはじけっぷりはどの局面でも演じていると感じさせない自然体の演技だった。何といっても、この作品最大の成果物は、彼女の歌唱力であった。社長であり、七瀬の父である堤真一も、死んでからの「霊魂」として登場するときの壊れぶりは、笑うしかない。
出てくるなり悪役感満載の小澤征悦に嶋田久作のコンビは記号的にもすぐわかったし、うまく立ち回ってくれた。存在感のないゴーストという役どころの吉沢亮も、本当に気配を消せる芝居ができているのがすごい。
意味深な宇宙服や、娘のローマ字がすべて元素記号で書き表せると看破できた「THINK」Tシャツがパスワードのキーになっていたりと、伏線や小ネタが生かされているなと感じた。90分強の尺でスピード感も失われず、放っていかれるほどでもない適度な疾走感。それだけではなく、「家族とは」「言わないと伝わらない」といった普遍的なメッセージも内包しているんだから、ただ単に「面白かった」とならないところがこの作品の凄いところである。
「死」を扱いながら、決して重くない作風にしつつ、しっかりと家族の修復にまで手当てする。こういう作品なら何回見ても面白いと感じてしまった。そう。「ハズレちゃうか」という期待を大きく裏切ってくれた怪作だったとスクリーンを後にしながら思ったのだった。
本当に劇場などを閉鎖している国もかなりの数に上っているのだが、日本はそこまでの強攻策をとらないでやれている。その代わり、海外からの映画導入が大作中心にほぼ途絶。邦画も、動員をけん引するべき「ドラえもん」「プリキュア」の公開延期で正直スクリーンは大量の空きが出てくる事態になっている。
そんな中、邦画の小品系は公開を決断。3/20初日となった2作品に照準を当てて当方は久しぶりのTOHO西宮OSに向かう。
一本目にしたのが「一度死んでみた」。広瀬すずの熱演がどう出るのか、と言ったところが気になっていた。とはいうものの、「どうせハズレなんじゃねえか」という思いが、ポイント鑑賞という「金を払いたくない」感情に結びつく。
場内は、2割ほど。祝日、上映初回という割にはそこそこ入っているという印象だった。
デスメタルバンドのボーカルという設定の広瀬すずの演じる七瀬。父親のことが大っ嫌いで、同じ空間に居ても境界線を設けてそこに立ち入らせなかったり、洗濯機も個別。それが可能なのも、父親は製薬会社の社長兼研究者。それでも、彼女が幼少のころから仕事のことが頭から離れない研究者脳であり、なんでも元素に例えたりする状態。それが嫌で嫌でたまらない七瀬は、「魂ズ」というバンドで「一度死んでくれ」なんていう曲で父親をDISりながら聴衆を魅了していた。
そこへ降ってわいた、ライバルの製薬会社の買収オファー。もちろん突っぱねるわけだが、そこからライバル会社の攻勢が始まっていく。その途上で、技術が漏れていることに気が付いた社長は、自分の会社の開発した、「2日間仮死状態になる」薬を使って一度死んでみることで黒幕や内幕を暴こうとするのだった。
この作品の裏テーマは、ズバリ、家族の再生である。
会社のことばかりだと思っていた父親は、実は、難病の妻を救える新薬の開発をしていたのだが、間に合わなかったことも劇中でいわれる。死の間際にあって研究を止められない研究バカではなかったことを七瀬が知ることで、父の母に対する愛情や、仕事に対する情熱というものに気が付いていくのだった。
彼女が言い続けた「死ね」の言葉は、自分と向き合ってくれない父へのシグナルでもあった。だから、実際死んでしまった時の彼女の喪失感は半端なかったと思う。
そして死んでしまってからの作劇の面白いこと。当然仮死状態なので「安置」場所はなぜか食堂。せめて会議室にしとけよ、と言いたいところなのだが、こうしたところに面白味を感じる。死に顔もおちょくっているようだったし、実際には仮死状態なのに幽体離脱しているところも漫画的だった。
三途の川を渡る演出も面白い。導師といえる火野(リリー・フランキー)が手引きするのだが、なんで彼の名前が火野なのか、というところが、のちのとあるシーンでピタリ合致するという面白さにもつながる。あー、CM好きでよかったwwww
得点は、望外の95点。何しろテンポがすこぶるいいのだ。
主役の広瀬すずの、今までと違う一面には脱帽である。「ラストレター」とか、ああいう清楚で普通の女子高生しか適役はないと思っていた私がバカだった。しっかり役作りをして臨んだだけあって、感情のはじけっぷりはどの局面でも演じていると感じさせない自然体の演技だった。何といっても、この作品最大の成果物は、彼女の歌唱力であった。社長であり、七瀬の父である堤真一も、死んでからの「霊魂」として登場するときの壊れぶりは、笑うしかない。
出てくるなり悪役感満載の小澤征悦に嶋田久作のコンビは記号的にもすぐわかったし、うまく立ち回ってくれた。存在感のないゴーストという役どころの吉沢亮も、本当に気配を消せる芝居ができているのがすごい。
意味深な宇宙服や、娘のローマ字がすべて元素記号で書き表せると看破できた「THINK」Tシャツがパスワードのキーになっていたりと、伏線や小ネタが生かされているなと感じた。90分強の尺でスピード感も失われず、放っていかれるほどでもない適度な疾走感。それだけではなく、「家族とは」「言わないと伝わらない」といった普遍的なメッセージも内包しているんだから、ただ単に「面白かった」とならないところがこの作品の凄いところである。
「死」を扱いながら、決して重くない作風にしつつ、しっかりと家族の修復にまで手当てする。こういう作品なら何回見ても面白いと感じてしまった。そう。「ハズレちゃうか」という期待を大きく裏切ってくれた怪作だったとスクリーンを後にしながら思ったのだった。