久しぶりの洋画鑑賞になった。とは言いながら、北欧が舞台のこの作品も、「家族の結びつき」が絵画のオークションシーンよりも出張ってくる、タイトルとは雲泥の内容になったところは特筆すべきだと思う。

名画系しかしないシネ・リーブル神戸に再び来館。手元不如意なことと、来週から上映の婆さん映画のためにリソースを取っておくこともあって日曜日なのに一本だけの鑑賞となった。
今回は久しぶりのアネックスでの鑑賞。500席以上という、関西でも屈指の収容数を誇る場所だが、もともとがコンサートや芝居・講演用の場所であることもあり、また、座席もピッチが狭く窮屈である。
この作品鑑賞に至ったのは20人余り。ここではさすがに閉鎖空間、といえるほどのキツキツ状態でもなく、余裕のある入れ込みになっている。

「ラスト・ディール」と表題にするからには、最後のオークションでの取引がクライマックスで、その後、売れて大団円、を想定していたわけだが、「ほほう。そんな風にしか脚本書けませんかwww」といわれてしまうような内容になっていくので、表題だけを信じて見に行くと少し肩透かしを食らう。
老店主が守る絵画店に、娘の息子……孫が、職業訓練を受けたいとやってくるところからストーリーは動いていく。オークションをする画廊でふと見かけた普通の肖像画に心を奪われてしまう老店主。サインがないことから普通なら買うのをためらうところなのだが、今までの鑑識眼が生きたのか、「これは名のある峩々の手になるものだ」と結論付ける。
孫と一緒に画の勉強に博物館に行ったりもするのだが、二言目には「何万ユーロだ」とか、「20万ユーロはくだらない」と金の話ばかり。それでも評価の欲しい孫は、しぶしぶ作者探しに付き合うことになる。
ところが、そのイヤイヤが思わぬファインプレーを産み出す。裏書されていたわずかな手がかりから、所蔵されていた博物館を割り出し、それが、イリヤ・レーピンの手になる「キリスト」像であると断定できたのだった。
このレーピンなる画家は実在している(すでに死去している)が、キリスト像は、別人が描いたもの(クレジットにも記載あり)。それでも、サインがないだけであり本物だと断定した老店主は、金策に走り回ることになる。

得点は、やや甘めの91点とした。
中盤で早速のようにオークションの場面が展開される。「おいおい、もうクライマックスかよ」と感じてしまったほどである。もちろん、「落としてから、自分のものにするべく代金を払い、お客様の手に渡り、入金されるまでがオークションですよ」ということにしていくだろうとは思っていたのだが、こういう、目的が話の途中で達成されてしまった場合、えてして、その後は悲劇的であったり、完遂されないということは薄々感づくわけなのだが、その通りになっていく。
レーピンの絵のコレクターも、最初はタッチから本物と見て購入の意思を示すのだが、仕入れ先に問い合わせてサインがないなどの瑕疵を知り、購入を断念。落札価格が超高額だったこともあり、あちこちにした借金が重くのしかかってしまう。しかも、孫の進学資金まで手を付けてしまったことが母親にばれて、せっかく修復しかけていた父と子の関係も引くに引けないところまでに向かってしまった。
売れず、借金だけが残った彼が取ったのは、店を完全にたたむこと。それで1万ユーロをねん出し、しっかりと返すべきところには返していく。そしてある日彼はまさにぽっくりと逝ってしまうのだった。

画を巡って家族の間もぎくしゃくするのだが、遺品の整理の段階で、このレーピンのキリスト像は、孫に譲る、と遺言を残していたのだった(弁護士のところに赴いていたのはこのため)。家族の間の継承。画を生業にすることはかなわなくても、祖父の想い出が詰まった一枚。金だけではない思いが孫に伝わったことは余韻を醸し出してくれた。
決して大規模興行など無理な内容に題材。だからこの手の作品は一期一会、見れるときに見ないと一生出会うことはないといってもいいだろう。北欧の陰欝な天気のようなすっきりはっきりしない作風だったが、「これはこれでいい」と納得してしまうそんな一本だった。