ほかの地域ではすでに上映済みになっていた、本作「イーディ、83歳 はじめての山登り」。ようやく地元・神戸のシネ・リーブルでの公開がこの金曜日から始まった。
同所での予告から漂う、名作感。ただの婆が行きたいと思っていた山に登ることにどういったドラマが展開されるのか?そして、堅物でヘンコな婆さんの心情がどう変化するのか、を鑑賞するつもりだった。

シネ・リーブルには、昼前に余裕を持って来館。正直言ってOS系にも行きたいところだったのだが、今大作をやっている状況ではないから、こういった小品でも拾っていかないといけない状況でもある。
館内は、15人程度。婆さんが主役だからか、初老の女性ソロの方が一番多くやってこられた。平均は60歳前半。若手は30代男性ソロくらい。きれいに散らばっての鑑賞になった。

難病にかかり体が不自由になった夫を介護する老婆・イーディ。だが、突然彼は天寿を全うする。唯一の肉親でもある娘は、自分のことで精一杯で、厄介払いよろしく、母親を施設に預けてしまう。今まで世捨て人のように生活していたイーディ。当然誰とも打ち解けようとしない。
カフェでの何気ない会話から、父と行きたかった山に行こうと思い立ち、急遽荷造りまでして山近くの港町までやってくる。ちなみにその山とは、こちらである(スコットランドのこちら/英語版ですって、日本語の需要無いんで、当然ですかね。読みたければ翻訳してくださいね。尚、標高は731mであり、登山が熱心な山ではないようだ)。
ずぶの素人がそれこそ予備知識なしで山登りは無理である。しかも彼女は予定より早く着いてしまい、宿にあぶれてしまう。
結果、この街に来て最初に知り合ったジョニーの家に転がり込むのだが、彼がアウトドアショップのオーナーであり、しかもこの山に登るためのトレーナーをかってでるのだ。若い人からすれば、面倒くさい老人の相手をするのは、それこそ金目当てでないとやっていけないと思っていて不思議はない。実際悪態をついたことも一度や二度ではない。泥塗れのイーディの長靴を面倒くさそうに洗っている仕草でもそれがわかる。
だが、日にちが薬。自分のショップでいろいろ買わせることにも成功し、何度かトレーニングを重ねるうちにイーディの表情が明るくなり、笑いも出てくるから面白い。とは言うものの、やはり基礎的な体力の問題が飲み会の席上で明るみになる。
すっかり自信を失うイーディ。買ってきたものに囲まれたホテルの部屋で一念発起、「辞める」選択をしたときには驚いた。それを翻意させようと、芝居まで打つジョニーのいじらしさには少しほろっとさせられる。
だが、登山の当日になって、イーディは一人で行くといい出すのだ。少しフラグが立ったのか?と思ってしまったのは内緒だ。たしかに標高は低いが山には違いない。何が起こっても不思議のない(特に天候の急変)登山は、舐めたことをすると命に直結する。
ジョニーは結局自分の携帯を渡し、連絡が取りあえることで老婆の一人登山を容認してしまう。彼女はうまく目的を完遂できるのか?

得点は、93点をツイッターのファーストとしたが、この論点が湧き上がって、Yahooも☆4、ブログでは88点とやや評価を落とした。
今までの生活が、結婚からこっち一切の自由なしで過ごしてきたイーディ。それでも献身的に看病も介護もしてきたはずだし、一人娘も育て上げてきたはずだ。そんな彼女の登山チャレンジは、一種命がけであることも本人はどこまで理解していたのだろう?実際の登山行を見てみても、オールは流されたのに向こう岸に渡れたのは幸運でしかないし、その前段であるボートを水面まで動かすことすらままならない体力であることも軽視している。極めつけは二日目。夜間に動くことは危険極まりないのに、暴風雨に見舞われてからテント設営なんて、玄人でも難しかったはずだ。マタギの家に転がり込めてなかったら、確実に死んでいたところだ。
3日目も同様。結局どのタイミングでも命の危機にさらされているのに「一人でできる」と過信しているのだ。

彼女のチャレンジは確かに買える。普通だったら、身の丈に合わない登山など最初っからしようとも思わないし、仮にするにしても、先達のいうことは聞くものである。だが、彼女の悪い癖……自己流が出てきてしまう。こうなっては、いくら準備をしていても、すべてが灰燼と化してしまう。実際何度も死にかけているではないか!「始めるのに遅すぎることはない」と、カフェで言われて一念発起したわけだが、それが下手すると死に追いやっていた可能性もあるのだ。
何の準備もしていない老婆の登山チャレンジ。結果的にはいい結末だったが、あの後どうやって下山したのか、あるいは後日談的な娘との和解とかも描かれた方がよかったか?登ってハイおしまい、では、彼女の人格的成長がうかがえない。そこらあたりの手当ての無さが秀作といまいち押し切れないところだといえる。