依然旧作でスクリーンを埋めなくてはならない状態は続いている。
それでも、その旧作たちのラインアップに苦心している興行主も結構いる。面白いのはいわゆる鉄板コンテンツの多いTOHO系。「君の名は。」「天気の子」といった作品とは早々に決別し、今現在は「PSYCHO−PASS」や4Kにアップデートされた「AKIRA」を上映したりしている。
本記事を書いているさなかでも100数十館で上映されている「君の名は。」。あの名作がいまだに見られる僥倖に浸れるのもそう長くはなかろう。

前日のヒトカラオールから2時間弱の仮眠を経て、勇躍OSシネマズ ミント神戸に降り立つ。だが、午前中からすでに閑散とした状態。結局ソロ4人にグループ5人の9人/すべて男性という属性で幕を開ける。平均年齢は、グループが30代前半だったこともあり、30代中盤まで。

50回目の節目の鑑賞は、またしても、涙腺の調子がよすぎて、たびたび決壊する事態にあいなった。今や、オープニングの「多分、あの日から」あたりからおかしくなってくるのだ。普通なら前半30分は捨てシーン的でもあるのだが、手の内に入っているだけでなく、やはりあの二人がどうして恋仲になっていくのかを饒舌に説明しなかったことが大きいとみている。
「あんた今、夢を見とるな?」
このフレーズの持つ神秘さに最近になって気が付くほどたった一言に秘められた意味と理由が重くのしかかる。
瀧入りの三葉が自転車をこぎ出すあたりから、そろそろとおかしくなり始める涙腺。「あのさぁ、あんたの名前?」この何の気なしの中学生の瀧の呼びかけ、そして、自分の名前を告げるときに上気した高校生の三葉。3年前にムスビが完遂していたことを我々は知り、そして「5次元での邂逅」までひっぱられるのだ。

目の前の三葉に驚き、ほっとした表情を浮かべ、そして「よかった」と安どする瀧。この芝居が、今鋭意製作中のアメリカ版の実写で再現されているかは注目してみたいところである。
カタワレ時がそう長くないことを利用したあのペンが落ちるシーンは、瀧の慟哭を引き出す舞台装置として完璧だった。だから、我々も彼に感情移入してしまう。何度も書いているのだが、神木氏はほとんど素のまま(少なくとも泣くという感情は見せず)演じている。だからストレートに響くのだ。

すべてにおいてエンタメにもなっているし、劇中で号泣できる作品はそうそうないのだが、登場人物になりきってしまうほど感情移入させられたのは後にも先にもこの作品しかない。のべつまくなし泣こうと思えば泣ける作品。こんな作品をスクリーンで見られることは幸せでしかない。