もし、10年前にタイムスリップできるならば、新海作品をもっともっと愛でるべきだったし、「君の名は。」以前に「彼はこの程度では終わらないよ」と未来予想できていたのに、と思う。
そうは言っておきながら、この作品……「言の葉の庭」が公開された当時は、そのあまりの美麗な描写と興行が釣り合わない部分がちょっぴりだけ話題になり、「ああ、そう言えば、彼って『秒速』の人だったよな」くらいにはアテンションを払っていた。もちろんスクリーンから遠ざかっていた時期であり、「そこまで言うんなら」とはならず、重い腰を上げずに過ぎてしまった。

「君縄」ヒットで見直しされつつある彼の旧作。「言の葉」「秒速」のリバイバル企画をした塚口サンサン劇場に、自粛明け後初めて訪れることとなった。

16:30の回は一席飛ばしながらほどほどに売れている。結果40人足らずが鑑賞。館内の大半が30−40代の男性で、平均は40代前半。見事におっさんホイホイになっている。
この作品のファーストインプレッションは、私個人的にはあまりよくなかった。→これがその証拠。
その大半を占めているのが、アンバランスである。背景描写は確かによかったのだが、肝心のストーリーにそれほど重みがない、という風に見立てたのだった。
それは、例えば上級生に喧嘩を吹っ掛けるタカオの心情が理解できなかったり、学校の教師に無関心すぎるタカオ(あれだけの美形教師に興味を持ってないところとか)、正直付き合ってもいない彼らが突然破綻するまでの短さとか。
50分足らずのドラマにするには確かにいろいろ盛り込めなかったところは理解できるのだが、脇筋に入るとどうしてもうまくないと感じられてしまうのだ。中でも今日4回目の鑑賞で気になったのは、ユキノの部屋でタカオと過ごすシーン。会話は一切聞こえないのに動作音(効果)だけは我々に聞かせている点である。「二人の幸せそうな表情でお楽しみください」といわんばかりで、すべて無音でBGMだけに頼ることもできたのに、それをしなかったのだ。意図があってしたとするなら、それを知りたいとも思う。

それでも、手の内に入っているストーリーだからか、時々で放つセリフに涙腺が反応してしまう。それはおそらく、二人に少し共感する部分が大きくなったからかもしれない。不器用な大人になってしまったユキノ、自分のしたいことにしか興味のないタカオ。二人の恋模様とは決して言えないすれ違い劇。クライマックスのタカオの怒鳴りと泣きじゃくるユキノ。花澤さんの一世一代の芝居といえるこのシーンだけでこの作品は十分語れると思う。