公開からこっち、口々に「いい」という評しか聞こえない、「アルプススタンドのはしの方」。
そんなことがあるかいな、と思いつつ、梅田ブルク7での2回を認める。ブルクでは、意外にも、シネ・リーブルで見るつもりだった「グランド・ジャーニー」も、「ステップ」もどちらもやっている。
そうと決まればこの3タイトル。グランド→ステップ→はしの方 とスケジューリングもできて、いざ劇場へ。

到着してみると、大きいお友達御用達的な、「劇場版 ひみつ×戦士 ファントミラージュ! 映画になってちょーだいします」が終わったところ。とは言っても見てもらうべき女児層の来訪も認められたのでほっとする。もちろん、見る気はありません(スケジュール上、この作品の朝イチ回は押さえられたのだが)w
ようやくのことで入場開始。7番は最上階なのだが、エスカレーターの長いこと。朝イチながらそこまで鑑賞しないかなと思いきや、カップル4組を含めて20人弱が鑑賞。平均は40代後半とした。

チラシとかを見ると、「少年が渡り鳥をうまく先導して、渡りを成功させる」という側面しか見当たらないし、「それを見させる」ことが第一義だから、どうしてもそれ以外のことはなおざりになっているんじゃないか、と思ってしまう。そうなった経緯とか、人間関係とかはどう描かれるのか?比重はどうか?その部分に期待半分でいたことは間違いない。
例えば、実の父親がいるのにもう一人の男性と関係を持つ母親。きっちり離婚しているわけではない、フランスらしい家庭事情がうかがえる。のちに息子ラブな母親に愛想をつかした形で男性は出ていってしまうのだが、このあたりの説明不足は、欧米人なら納得の一節なのだろう。
序盤で父親が公印を簡単に持ち出せてしまう、ざるな管理体制といい、渡りを始めるべく到着したノルウェーの司法当局の及び腰といい、見ていて、そんなに都合よくすべてがうまくまとまるんかいな?と思わずにはいられない。

だけれども、行きがかり上、息子・トマが群れを先導しなくてはならなくなった時、母の愛情はすべてに優先した。だから父親に毒づき、行方不明の息子の安否を気遣い、時に激しく動揺する。ひょんなことから動画が投稿されたことで居場所がわかった時の彼女の喜びようといったらない。
トマも、多くの人の手助けと、少しの悪事で持って、計画を完遂するわけだが、そこに主題はない。心が離れ離れになった一つの家族が、目標に向かって一致団結していき、絆を深めていく作品だった。

ツイッターのファーストインプレッションでは、94点とした。
トマの登場当初の顔つきと、エンディングの顔つきで、成長の度合いがうかがい知れる。彼は間違いなく、アッカをはじめとする雁たちの母親であった。湖面に浮かんで鳥たちと戯れたり、嵐ではぐれかかったアッカと再会したりするシーンは、否が応でも涙腺が反応してしまう。
何より、渡りを完遂した後の家族が抱き合うシーンも感動ものだ。「喜望峰の風にのせて」みたいな、タイトル詐欺にならなかっただけでも十分だったし、その後日談的な「ノルウェーに帰還する」渡りが人工的に成し遂げられた結末あればこそ、この作品は完成されたものになる。
群れの中に一羽だけ別の種類の雁を混ぜてあったのも、結果的に意図した方向に持っていけた。差別・区別に至らない(トマ自身は、アッカを溺愛していたようだが)人為的な渡りに別の種類の鳥の混入はむしろ好都合だっただろう。
正直ロードムービー的であり、「給油」「食料」という観点で見ると都合よく行きすぎたきらいはあるのだが、家族の再生の物語だから、そちらを詳しく描かなかったところに監督の矜持を感じ取った次第である。