ここ最近、私自身、座組で映画を見ることもよくするようになっている。
例えば、「チィファの手紙」は何から何まで、「ラストレター」そのままであり、はまらなかったばかりか、監督まで同一、となれば見る必要は全くない。岩井監督自体が私に合わない、という部分も大きい。
極力そういった監督を作りたくはないのだが、当初この名作めいた予告を見て、一抹の不安を覚えたのは偽らざるところである。

そう。監督が、「新聞記者」の藤井道人氏だったからだ。政治的性向の強い作品は基本未見にする当方のフィルターからは外れたわけだが、彼のフィルモグラフィーを見ていると、「デイアンドナイト」とか「青の帰り道」(いずれも未見)と言った作品も手掛けている。
それなりの力量がある人なのか?という観点で見させてもらったのだが、予告編から漂う、名作臭を今回も見事に嗅ぎ分けられた。
当初、桃井かおり演じる「星ばあ」は、イマジナリーフレンド的な立ち位置なのか、と見ていたのだが(空飛んだりしてたからね)、実体はある、ただミステリアスなおばあちゃんに描かれている。その部分を序盤では、くどくどと悪態ついたり、しゃべりすぎといえるくらいの会話量で我々に性格付けをきっちりと植え付ける。
中盤から後半になるにしたがって、彼女はほとんどしゃべらなくなっていく。その代わり、中学生のつばめの心のよりどころになっていくシーンが増えていくことで、祖母というものに無縁で、尚且つ継母という境遇をも乗り越えていくための踏み台になっていくのだ。桃井かおりの激賞してもいい芝居がこの作品をしっとりと、しかし力強く導いていく。

とにかくこの、桃井かおりの演技というか、自然体の挙動に完全にしてやられる。邦画の中でもベスト5に入るであろう、96点をつけた。
今作に通底するのは「家族」を屋根になぞらえる描写であり、また、星ばあがつばめに投げかけるセリフの一つ一つに言いたいことが内包されていることだ。曰く、「言いたいことは言わないと伝わらない」とか、そういうたぐいの、不変だけれど見過ごしがちなメッセージだ。
そして、この作品も、いい伏線や演出を多数仕込んでくれた。生みの親の個展に出向いていったつばめが現実を知らされたとき、彼女の背中しか映さず、土砂降りの中を帰らせる記述にはうならされた。三羽描かれているつばめも皮肉以外の何物でもない。ラストのクライマックスはあの通信手段が出てくるところだと思っているのだが、このシーンは、ここ最近の邦画の中でも素晴らしくファンタジックで清らかで、感動できる場面だった。
しかし、それで終わりではなかった。最後の最後にとんでもない仕掛けを施してあるとは!!
つばめに水墨画を進めた書道の先生が誰かの個展に訪れる。最初は水墨画だったのに、のちに色が付いていく。そしてドカーンと描かれる、二人が屋上で語らっている場面をモチーフにしている巨大な絵が飾られて終了となるのだが、この夜空の中に「4羽」のツバメが書かれているのを見つけてしまった!!もう、この小憎らしい、そしてその絵がかけるのはつばめしかいないとわかってしまう仕掛け。そう。15年後、つばめはそこまで成長したのだ、とわからせる設定だった。
監督の術中にはまってしまったんだから、そりゃぁ、2020年度の邦画のベスト級に位置するのは仕方ない。次回作は、裏社会を題材に選んだ藤井監督。このバイタリティはどこからくるのか?目が離せない。