私は、この作品の2018年の第一回目の鑑賞評として、これを結論に持ってきた。(斜体部抜粋/一部省略)

この作品・・・「リズと青い鳥」ほど、実写的な、いや、それをはるかに上回る映像表現力を持って世に問うたアニメーションは私は体験したことがない。(略)この作品を実写化することははっきり言って「不可能」だといっておく。それは、二人にどうあっても成りきれないからである。アニメーションがより実写的に人物を書いてしまった。亀さんではないが、「これは事件」である。

今の今まで気が付いていなかったのだが(それは円盤買って一息ついていたことも大きいか)、2018.6以来、この作品にはスクリーンで対峙していなかったのだ。自身のランキングを見返しても、19年・20年と、出てきていないのだが、「え?そんなに間が空いていたのか?」が偽らざるところだ。
だが、やはり、この作品を単体で見ても理解できるように仕向けてあるせいもあって、「誓いのフィナーレ」よりは客が押し寄せた。9割以上を男性ソロが占め、それだけで実に40人弱。女性ソロは数名程度で、男女比は9:1と圧倒的に男性優位。平均年齢は、ここではやや若年化したものの、それでも40代前半まで。良い作品は自然と客を呼ぶということが言える。

あまたのアニメーション映画に触れ、それなりに良い作品にも触れてきたつもりだったが、この作品だけは異次元だ、と今でも思う。架空の童話をもってきながら、それを現実の二人に"演じさせる"。しかも、それは自分自身を間違って見ていた立場の逆転を境に羽ばたくみぞれ、それを受け入れる希美という具合に見せるところがすごいのだ。

前段の設定が、観客に誤認を誘うところからして舌を巻く。リズとのことが大好きな青い鳥(の少女)。それは、今まで独りぼっちだったリズにとってもかけがえのない友人ができたに等しかった。独りぼっち……ここで観客はみぞれがリズだと早合点する。自由奔放な希美が青い鳥。だから、リズ(みぞれ)は青い鳥(希美)を離すまい、どこまででもついていく。「希美の決めたことは私の決めたこと」とまでに溺愛するのだ。
だが、立場が逆転する、二人の気付きは、あの演奏にすべてが言い表されている。今回も、ウワっという感情に捉われ、頬を涙が伝う。それだけではなく、フルートの悲しげな音にも涙腺が反応する。中学時代、みぞれを引き込み、自分は勝手気ままに動いていきながら、それでもみぞれからは慕われる希美。自分がみぞれを引っ張っていると思っていたのとは別の才能の開花。見切っていた新山先生の慧眼にも恐れ入るが、この演奏が魂の叫びであり、だからこそ周りをもざわつかせたのだった。

後の「誓いのフィナーレ」では、「みぞれの音を支えるから」と言い切った希美の力強いフルートの咆哮が、みぞれのオーボエをより一層際立たせてくれた。立場の倒錯、そこからの気付き。あの通し稽古では見られなかった希美の吹っ切れた演奏を知る上でも、第三楽章・ビフォーである本作品は重要だし、見ておかないといけない作品だといえる。

6回目のスクリーンだったわけだが、まだまだ語り足りない。二人に特化してはいるけれど、本当に二人が望んでいた未来はどこにあったのか?振り返った希美の顔は、どんなだったか? みぞれは音大に受かるのだろうか? シリーズもののスピンオフといってもいい作品でここまでの位置づけにできる作品はそうそう出てこないのではないだろうか……