公開初日/初回を鑑賞して、テンションも上がる。内容は想定の範囲内だし、特別感動とかが覆うような作品でもなかった。
その点、西川美和監督の「すばらしき世界」は、出所した殺人犯がどう世間に順応し、タイトルを具現化する過程を描くのか、気になっていた。

コナン君が腐女子を集めまくったとするなら、西川監督は、中高年をキレイにさらっていく。だが、ここでも女性の台頭は否めない。ソロは男性が優位に立ち、残るはカップル。ほぼ男女比イーブンで、50代後半を平均年齢とする。

さて、採点の結果だが、これまた当方が過度に期待してしまったところもあったのだろうか、93点どまりとなった。

確かに役所広司氏の演技は素晴らしい。ここ最近は、円熟味がさらに増し、今作でも、鬼気迫る恫喝のシーンや、何気ないしぐさなんかも絵になる。だが、このストーリーの設定の甘さに疑問を呈したくなる。
それが、役所氏演じる三上の生まれつきの粗暴性が、完全に治癒している風がないことにある。刑務所収監中にも、その短気な性格から問題を起こしまくっていた三上に、精神的な治療を行っていたそぶりが見えない。幼少期に受けた体罰やいじめ、精神的な虐待が、脳の成長に対して影響し、成人しても悪い影響を持ち続けることもわかり始めているころだけに、カツアゲしていた二人のチンピラを血祭りにあげるところとかを見せつけられたら、「もうムショには戻らない」という彼の言葉に何の説得力もなくなるのだ。
刑期を終えているにもかかわらず、彼は、スーパーでは疑われ、階下の住人に文句を言えば脅されたといわれてしまう。自分がかわいいわけではないが、他人に対する悪事には義憤が高じてやりすぎてしまう。結局東京から逃げる決断をする。転がり込んだ暴力団事務所も、とある事件をきっかけにガサ入れを受ける。そこから這う這うの体で逃げる三上。
結局免許は二の次にして働く方向に舵を切る。几帳面な性格が買われて介護施設で働くことになるのだが、ここで、自我をようやく押さえて調和する方向に持っていく。それでも、いじめられていた職員には声をかけてやれない。
嫌な予感のする嵐のシーン。「あら、そうクローズするんだ……」。あえてこの作品にはこんな締め方はしてほしくなかっただけに、その部分でももやもや感が付きまとう。「物語は、ハッピーエンドがいいよ」とは、とあるアニメーション映画の女性のセリフだが、私には希望の持てるさわやかな「すばらしき世界」を想起していただけに、三上に関わった人たちのやるかたない表情とかのラストシーンは本当に重たく感じてしまった。

このラストシークエンスは、原作が影響しているのだ、と理解することにした。本来なら「大きな空」は明るく未来を想起させるものだからだ。そうではなく、どんよりとした雲に覆われた空をバックにタイトルが出てくる。息苦しさや見通せない未来というものを監督は言いたかったのだろう。
そうしたメッセージ性は伺えるのだが、すべてがうまく行き始めた時に三上は高血圧が元で死に至る。この無常さはあまりに重いし、ここまで三上を応援してきた観客にもあまりな仕打ちだ。
大傑作か?と思いきや、案外普通に感じてしまった。