緊急事態宣言さなかの兵庫・大阪・京都だが、大阪の映画館は土日クローズなのに、ちょっと淀川を渡った兵庫県尼崎市なら映画が見れるという、このザルな宣言に緩和状態。
「なにやってんすか」と言いたいところだが、そんな声はもはや届きそうにない。

それならそれのように、こちらも動かせてもらう。うまい具合にMOVIXあまがさきのラインアップがほぼ時間を無駄にすることなくスケジューリングできたので嬉々として向かう。
一発目に選んだのが、佐藤二朗監督の「はるヲうるひと」だ。
自身の主宰する劇団の当たり芝居、ということもあって、満を持しての原作・脚本・監督作となったわけだが、芝居にはない凄みなどがフィルムから感じられるかが焦点だった。
佐藤監督自らがカミングアウトしていることなのだが、主演の山田孝之は、やらせて下さい、と頭を下げたそうだ。彼の演じる役は、例えば『ステップ』のような、主夫になろうとする経過を見せる成長する人物だったり、はたまた凄みを持った役だったり、と振れ幅が大きいことで有名だ。
その部分をのっけから見せてくれる。島に渡ってくる、女性の体目的の客に、早口でシステムをまくしたてるところとか、島の子供にバカにされつつチンカス、と罵ったり。そうかと思えば、恐怖政治よろしく売春宿を取り仕切っている義理の兄である佐藤二朗には頭が上がらない。しかも、売春婦としても使い物にならない妹も見ておかないといけない。

さて、シリアスな演技の佐藤二朗ってどうなのかな、と思ったのだが、あの詰め寄り方は一級品だ。佐藤二朗的芝居ではあるんだけれど、その奥底から湧き上がる怒りや不信が手に取るようにわかるから、こちらも緊張感に襲われる。序盤とクライマックスに彼の見せ場が用意されているのだが、三の線ばかりやってきている俳優さんとは思えない演技は必見だ。
しかし、その彼をも食ったのが、やはり山田の演技だった。時折見せる突然の号泣シーンにも理由があったのだ、と知らされるクライマックスシーンのカミングアウトは、それまでの我々の中に描かれていた事件のアウトラインを大きく上書きしてしまう。「話が違う」ということに我々の理解が追いつく間もなく、風俗嬢と薬局の店員の結婚式で幕を閉じてしまうのだ。

得点は90点をファーストにしたのだが、まったく機能していない原発反対運動の描写って、いるか?となったこともあり、88点にやや落とした。ちょい役の向井理の深みのなさとか、なんといっても「これ、傑作ですぜ」と紹介できない部分が非常にもったいない。
監督が言いたいメッセージ性は、確かにある。虚ろに口をつけたすと嘘になる、とか、「まっとうとは何ぞや」など、言いたいことはいっぱいあったのだが、盛り込み過ぎたところが散漫に写ってしまった。
ラストカットで、遂に自分の職業を言ってのける風俗嬢。彼女だけではないだろうが、自分の職業を胸を張って言える社会が早くできれば、という大テーマをそこに込めたところはしっかりと受け止めたつもりである。