すでに関西圏で8回見た「アイの歌声を聴かせて」。
1/20の塚口サンサン劇場でのラスト回から約2週間は経っているわけだが、近隣圏/電車で行ける日帰り圏ならやっているところがあれば見に行くつもりにしていた。
果たして、名古屋圏で2/11の初日初回(一日一回上映)上映があり、どういう経路を使っても間に合うとなったら、行かないで済むという選択肢はない。

午前8時過ぎに自宅を出発。予定より一本早い電車に乗ったせいで、京都での駅そばにあり付けた。そこから米原まで新快速。米原からは、速達性を重視して新幹線を利用。名古屋で一旦下車して、刈谷まで。刈谷からは名鉄で一駅の刈谷市に到着する。
少しいやな予感のする、2両編成の電車。降り立った刈谷市は、島式のホーム。乗降客も一桁。立派な高架の路線とは不似合いな状況は、駅前に降り立っても歴然としていた。
一軒ぐらいありそうなコンビニは、どこにもなく、ロータリーとは名ばかりの駅前は、客待ちタクシーが一台いるだけ。11時40分過ぎに到着したのに、人通りもほぼなく、幹線道路から外れているからか、車通りも数えるほど。「市」とついているから、それなりに都会なのかと思っていると大きな間違いである(阪急の茨木市駅、京阪の寝屋川市駅あたりを想起するとギャップがすごい)。
そんな調子だから、刈谷日劇が入っているビルは、駅からも見える唯一の高層ビルだった。その昔は、ブイブイ言わしていたであろう、レジャービルは、一階のパチ屋、2階はパチ屋の倉庫、3階がドローン養成所となっていて、目指す劇場は5階だった。
古式ゆかしい場末の劇場だったが、2スクリーンが鎮座している。つい最近導入されたと思しき、レシートプリンターでの発券で、なかなかに香ばしい。
実際の設備は、まさにタイムスリップしたという表現が似つかわしいレベル。下手したら、開業当時のままと思しき椅子には、ドリンクホルダーなる文明の利器は付帯しておらず、昔の人はどうやって飲み物とかを携えていたのだろうか、と心配になる。
11人が鑑賞することになったのだが……劇場のポテンシャルを一瞬でわからせるこの映画の開始1秒で一気につかまされた。

そう。音が半端ないのだ。
塚口サンサン劇場でそれなりの音の凄さを味わったことのある私が、あのシーンで身構えてしまったのだから、そこからの没入度合いは半端ない。
あくまで邪推なのだが、この手の入れようが、実に塚口版と似通っているのだ。あのセリフが後ろから、観客の不規則発言みたいに聞こえるところとか、本当に音に対する手当てが素晴らしかった。だからなのかもしれないが、泣けはするものの、大きな感情の勃興までには至らなかった。

9回目を終える。11人の中で正装で対峙したのは当方だけ。しかし、この作品だけは、今後見る際には正装は必須ではないか、と考えている。それくらい、襟を正し、背筋を伸ばして感動の涙を流すのが正しい鑑賞の作法ではないか、とさえ思う。