油絵のような原画をアニメーションさせる。やってやれないことはないだろうが、それをやろうと思った時に、考え得る障壁や障害はいくらでも出てくる。
そもそも「ゴッホの描いた絵」のようなタッチが原則であり、単にトレースすればいいとか、パーツだけ動かせばいい、という話ではない。一コマごとに色彩を変えたりしているその手間暇さ加減に、あっけに取られてしまう。

なので、ファーストラン当時で見ておきたかった作品ではあったのだが、綺麗に流れてしまった。「君の名は。」の併映とはいえ、私にとって初見を対象に選んでくれたことはなかなかできることではない。

君縄からの連チャンで見る人は意外に少なく感じられ、結局10人程度が対峙するにとどまった。意外にも女性が4人とかなり女性の比率が高い。「そういう作品なのかなぁ…」と思った。

郵便局長が、届かなくなったゴッホの手紙を相手に届けるように、息子に頼むところからストーリーはスタートする。息子はすぐさま届け先に向かうのだが、弟である相手は死去してしまっていた。そこから、彼は、ゴッホの死に至る最後の数日間を検証する旅を始めるのだった。

絵柄もさることながら、再現フィルムの主人公たちにも抑え気味とはいえ、同じようなエフェクトをかけてくるものだから、始終同じトーンで見せられてしまい、非常に目が疲れる。ゴッホは自殺なのか、他殺なのか?それとも事故だったのか…登場人物たちの、腹の底を見せない演技・言動についつい引き込まれていく。
友人だったはずの医師が何の措置もとらないと証言する宿屋の娘、口論もしていたという家政婦。そういった状況証拠が医師に疑惑の目を向けさせる。

結果として、その医師がすべてを打ち明けることで、疑惑は消え失せ、彼は彼なりに弟に気を使っていたのだと知らされる。

手紙は届けられ、そしてその返信も受け取る郵便局長とその息子。一つの「結論」はわかったつもりだが、やはり、演出手法が重すぎる。もちろん、世界初の手法ということもあり、それ自体を貶めるつもりはない。ゴッホの最後の何日間を描くのだから、油絵でやろうか、となるのはわからないではないが、実写の取り込みにそういった演出を取り入れるという時間のかかる手法に気が行ってしまい、肝心のストーリーには没入しにくかった。

別に駄作ではないが、この作品を何度も何度も見ようとは思わない。人物に関しても、そのエフェクトが、正確な演技を邪魔してしまう。特殊効果は映像美という観点から見ても、逆効果だったともいえる。
ゴッホの晩年、特にこの死に至る数日間は謎に包まれている部分が多いようだ。それを油絵で描き、ゴッホが描いたかのように見せる手法は高く買いたい。82点としておく。