毎月16日は、OSシネマズ系のサービスデー。1100円で見られるのは実に好都合である。ちなみに「ガルパン」の映画は、そもそも短く、1200円均一になっているので、サービスデーの恩恵は受けられない。

スノー・ロワイヤルを終えて次に向かったのは、下馬評がかなり好調だった「海獣の子供」である。芦田愛菜の吹替えの凄さが言われていたこともあり、かなりハードルは上がっていた。ただ、キャラデザといい、人間描写には、ここ最近の画風とは違う粗野な感じもあって、これがどう出るのか、は見てみないとわからない、と言ったところだった。
中学生の琉花の夏休みは、初日から好事魔多しを地で行くアップダウンの凄さを露呈する。ハンドボールの試合で、意趣返しした相手に思わぬけがを負わせてしまう。挙句「こなくていい」という顧問のお達し。かくして彼女の夏休みの部活生活は初日で終焉する。
仕方なしに、父親が勤める水族館に。そしてここで彼女は運命的な出会いをするのだ。それが「海」であり、海獣の子供……ジュゴンに育てられた双子のうちの一人だったのだ。

ストーリー語りは序盤までしかできない。大人たちの思惑や、海と、双子の兄・空の体の謎の解明などに分量を割けるほどでもなく、徐々に双子たちの変化が現れてきても、我々にはそれを黙ってみているだけしかない。琉花と同じ境遇にも立ち入り難い。それは、琉花自身の抱える心の闇が少し大きめだからだろう。
ファンタジーものにありがちな、キャッキャウフフがほとんどないのだ。「あ、これは重苦しい流れだな」と察するのにそう時間はかからなかった。

そうなってくると、ストーリーに乗れなくなっていく。もともと概念的なことばかりを端々に入れ込んでくるものだから、それにまたとらわれていく。アングラードのもとで暮らす3人の描写にしてみても、アングラード自体がまた小難しいことを言って我々を煙に巻く。一向にストーリーに没入できない状態が続いていく。
そうこうするうちに「祭り」が近いことが知らされる。だが、その途上で空は光となって消え去ってしまう。その際に隕石を琉花に託するのだが……

得点は72点とした。
だが、後半の「祭り」に伴う20分余りの映像は、恐ろしいばかりのスペクタクル度で迫ってくる。バースデー・ワンダーランドは、あの一瞬だけを見るための映画だったかもだが、この作品は、あの映像を見るためだけに1800円払っても惜しくないと思える今年一番の出来である。とにかく手の入れようが半端ない。これがもし手書きだったら……それはないと思いたいが、動画のスタッフロールが久しぶりにえげつなかったので、もしかするともしかするかもしれない。
そうは言っても、そこだけ突出しているから全体像も引きずられるかと言ったらそんなことはない。せいぜい琉花と海空たち、琉花の家族関係のストーリー部分は40分あるかないか。内容がそれほどでもなく、ファンタジー特有の上がっていく感じもほぼ感じない。
「海獣の子供」と琉花が織りなすひと夏の想い出的な内容と思っていたらさにあらず。でずっこける、というレビューも意外に多く見受けられた。かくいう私もそのたぐいである。こんな概念的、観念的、抽象的な映像を提示して、どの程度の観客が理解できるというのだろうか……?

なので採点はしたが、映像美だけは今年一を目指すものではあるのでランキング対象外と設定した。映画としておすすめはしたいのだが、それは、スクリーンに映る映像を丸ごと飲みこみ、ストーリーの薄さ/脚本の中途半端さに目をつぶり、また、荒っぽい感じの人物描写に我慢して見られる人に限られると思う。
結論としては「シロートにはお勧めできない」(ゴノレゴ 談)作品という評価になってしまった。